アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『時空旅行者の砂時計』 / 方丈貴恵

 

このシリーズの『孤島の来訪者』が好評だったので読みたいと思いまして、それなら1作目から読もうと思いまして本作を読みました。

 

本作のあとがき(解説)は辻真先が書いています。

つまり、そういう類の本です。

そう言ってどこまで言いたいことが伝わるか分かりませんが、今時のラノベ感もあるミステリーということです。

 

ただし、本作は飽くまでも本格ミステリーとして位置づけられています。

位置づけられてはいるんですが・・・。

確かに謎解きは本格ミステリーのそれと遜色ないかも知れません。

ただ謎解きの中にはタイムリープに関することも含まれています。

そういう所は『アンデッドガール・マーダーファルス』と似てますね。

そして、私はそのどちらもあまり好きでは無いという・・・。

 

はっきり言って本作も好きな作品では無かったです。

謎解き部分はなるほど!と思えるところもあったんですが、そもそも物語に没入できず、それが謎解きに没入出来ないことに繋がり、そして興味が失せていきました。

謎解きの辻褄は最終解決では見事に合いますし、伏線も張られています。

なので、これは単純に自分の好みではなかっただけ、と思っていただければ。

実際、本作のレビューを読むとなかなかの高評価になっています。

あ、そうそう。

謎解きの興味が失せてしまったのは、意外と複雑でついて行けなかった自分の頭の問題もあると思います。

大体の人には面白く読めるのかもしれません。

 

『アンデッドガール・マーダーファルス』は結局1作目を読んで、それ以降読んでませんが、本シリーズは次作も読もうと思っています。

が、期待値はちょっと低くなったかも・・・。

それが良い方に作用することを願います。

 

ということで、感想というよりもただ読んだという事実を残しただけの記事になってしまいました。

 

 

『時空旅行者の砂時計』

★★☆☆☆  /  (2点)

『災厄の町』 / エラリー・クイーン

 

いよいよライツヴィルシリーズに突入です。

突入なんですが、読了したのは1カ月半前くらいで、ちょっと消化する時間が欲しいと思っている内に記憶が薄れてきてしまいました。

 

さて、本作は読む前から評判の良い作品だということは知っていました。

人によっては最高傑作だと言っている方も居ました。

それを聞いて期待値は高まるのは必然なんですが、極力フラットな気持ちで読みたいと思っているので、出来るだけ先入観を持たないように気を付けました。

 

それで本作の率直な感想ですが、「アガサ・クリスティみたいな作風だな」という感想です。

なんというか、今までのクイーンのお話が「ミステリーのための物語」だとしたら、本作は「物語のためのミステリー」になっているような気がするんです。

パズル的な謎解き要素ではなく、登場人物たちが織り成す人間関係、生活の上に謎があるという印象で、まさしくクリスティのそれと同じ構成だなと若干感じました。

そして、その感じは既に読了済の次作でより強まることになります。

 

ということで物語としてはとても面白かったです。

ただ飽くまでも「物語に関しては」ということです。

はっきり言って謎解き部分に関しては本作には全く騙されることがありませんでした。

事件の状況、登場人物の行動や言動、透けて見える裏事情を鑑みると「これってどう考えても・・・」

謎が解けてしまったから面白くない、なんて事をいうつもりは毛頭ありませんし、自分も全ての謎解きが解けたわけではありません。

それこそ綾辻行人の『水車館の殺人』の巻末に書いてあった作者の言葉がこの場合も当てはまると思います。

ただ、自分は「ちょっと捻りが足りないのでは?」と思ってしまうのです。

登場人物は人間性豊かに描けている、ライツヴィルという架空の町を舞台に設定したことにはワクワクを感じる(杜王町的なね)、そしてしっかり人間ドラマがある。

ここまで揃っていて最後のピースが欠けてしまうという、まさに画竜点睛を欠く作品だと個人的には感じてしまいます。

 

作品としては面白かっただけに、どうしても残念に思ってしまうのです。

クリスティみたいな作品というだけであって、クリスティの作品では味わえない物語が本作には確実にあります。

それは、やっぱり舞台が架空の町とは言え、アメリカということが大きいような気がしています。

これはクイーンでなきゃ書けないでしょう。

それだけに、この作品が傑作だと言う気にはなれないんですよね・・・。

こんな事言ったら手前味噌になりますが、やっぱりクリスティの人間ドラマ×ミステリーの構成が成り立つのは凄いですね。

でも本作も面白かったんですよ。

というような反省点が、次作ではしっかり補えているような気がします。

次作では似たような作風の上でしっかり騙されましたから。

 

ということで、ライツヴィルシリーズはまだ始まったばかりです。

一旦町から離れたエラリーがどのように舞い戻ってくるのか楽しみです。

そういえば、本作のエラリーの偽名は『悪魔の報復』以上に酷いものだったな・・・。

 

 

 

『災厄の町』

★★★★☆  /  (4点)

『何様』 / 朝井リョウ

 

『何者』の続編・・・というよりは番外編とでも言った方が良いでしょうか。

『何者』とは違い、本作は短編集、アンソロジーになっています。

『何者』に登場した人物、もしくは関連した人物たちの『何者』の前後に当たる物語が描かれています。

 

・「水曜日の南階段はきれい」

『何者』の登場した光太郎が主役の物語です。

結局こういう話が好きな自分です。

本作に収録されている物語の中で最も好きです。

『少女は卒業しない』の「メトロノームをもう一度」に似てる話ですね。

『何者』の終盤で明らかになった、光太郎が好意を寄せる人が登場します。

 

・「それでは二人組を作ってください」

この章のタイトルがグサリと来ます。

自分もこの手のグループ作りは苦手な方だったので。

とは言え、この章の主人公である理香とはちょっと異なる理由ですが。

この章の理香の締めの台詞がちょっとだけ切ない。

『何者』の終盤で理香が吐露した思いを考えると、彼女なりに成長してる様子が見て取れる気がします。

 

・「逆算」

最後のオチ以外特に印象に残りませんでした。

でも、話としては面白かったです。

 

・「きみだけの絶対」

朝井リョウなりに伝えたいメッセージがあったはずですが、残念ながら自分がそれを受け取ることは出来ませんでした。

むしろ『何者』を読んで少し濃くなった烏丸ギンジというキャラクターが、この話を読んで薄まった気がします。

 

・「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」

うーん・・・この話も特に印象に残らず。

ただ、真面目に、清く正しく生きるだけではチャンスは手繰り寄せられない、という側面は、ある意味『何者』にも通じる部分があったように思います。

 

・「何様」

恐らくこの話がリード作品になるのでしょう。

朝井リョウらしいというか、『何者』の時と同じく最後に視点がひっくり返るような展開になります。

「その一秒だって誠実のうちだと思うよ。」

『何者』から続いたここまでの話が、この一言、この格言によって補完された気がします。

これはミステリーの楽しみ方にも通じることだと思うのですが、先入観が破壊される瞬間というのは良くも悪くも印象に残りますね。

勿論、本作の場合は良い方に、それも感動するほどに。

そして朝井リョウのトドメの刺し方は、いつだってクリティカルに、心の深い部分まで刺さりますね。

 

 

ちなみに本作の解説はオードリーの若林氏が書いています。

が、その解説は自分の心には刺さりませんでした。

ただ「私の中の~」という件は共感しました。

全体的な本作の印象は薄い感じは否めないのですが、間違いなく刺さる部分もありました。

必読、とまでは行かないまでも、『何者』を読んだ人は本作を読むことで補完される所もあるのではないでしょうか。

 

 

 

 

『何者』 / 朝井リョウ

 

自分の好きだと言える数少ない作家の一人が朝井リョウです。

と言っても、『何者』でまだ5作目なんですが。

そして本作も読了してから時間が経ってしまいました・・・。

 

本作は戦後最年少での直木賞を受賞した作品・・・らしいです。

正直、ピンと来ないです。

自分は1年前程に読んだ『少女は卒業しない』が原作も映画も大好き過ぎて、本作はちょっと物足りないというか、自分の中で芯を外された気分です。

ただ、この作品の中盤まではSNSや就活のシステムに対する皮肉を描いているのかと思いきや、実は最後の最後でちょっとしたどんでん返しが起こり、作品のテーマが全く変わった事には驚きました。

 

本作は「新卒採用の就職活動に挑む学生たち」を描いた作品です。

自分の学生時代の就職活動を思い出しながら本作を読むと、共感できるところもあれば自分の至らなさ過ぎた所を痛感することもあります。

本作の登場人物たちの姿が等身大なのかどうかはよく分かりませんが、キャラクター造形は面白く感じました。

 

自分はSNSを覗くことはあっても、自分で発信しているものといったら精々このブログぐらいです。

『何者』では旧ツイッターで呟く学生たちの日常、そしてそれとは別に迫っている現実と言った対比が至る所で見られます。

ところが終盤である人物がついに本音をぶつけることで読者に見えてなかった現実が見えてくることになりますが、これが自分的にはスッキリしました。

現実を明かされた側は立ち直れないくらいの感じでしょうが、現実を突きつけた側は意外と自分の個性を理解していたんだな~というところで、すごく腑に落ちました。

そしてそれは次作『何様』でより納得できるようになっています。

 

『何様』の話は一旦置いておいて、『何者』で朝井リョウに突きつけられたメッセージには少しドキリとしました。

知らず知らずのうちに自分もそうなっていたかも、なんてことを思いました。

ただ、そのメッセージが自分の中に確かに刺さりはしたものの、深くはなかったです。

「桐島」や『少女は卒業しない』には自分の中で失われた憧憬に心揺さぶられるものがありましたが、本作のテーマ自体が自分の中では「だから何なの」という感じもしてしまうというか。

社会人に一度なってしまった身としては、そんなこと考えてる暇もないよ、って感じがします。

きっとこの作品の登場人物たちも、それぞれが進んだ道でそんな迷いすらも消え失せてしまうのだろうと自分は思いました。

 

映画も気になりますが、まだ観ていません。

次作『何様』も読了済みなので、それもいずれ感想書きます。

ただ『何様』はいつもの薄っぺらい内容を更に薄っぺらくしたものになりそうな予感・・・。

 

 

 

映画『犬神家の一族』


www.youtube.com

 

こちらの感想も書いてませんでした。

はぐれ (id:haguture)さんからのオススメで、市川崑監督の作品を探しまして最も有名と思う『犬神家の一族』を観ました。

間が空いてしまったので、2回鑑賞しました。

 

率直に言って、メチャクチャ面白かったです。

最初は石坂浩二金田一耕助を演じると言うのがイメージが着かなかったのですが、確かに原作のそれとは別物かも知れませんが、しっかり金田一耕助でした。

ちょっと格好良すぎるけど、イメージより背も高いですし。

でもそれが良い。

 

シナリオは原作の概ね忠実だったと思いますし、映画ならではの脚本もとても良かったと思います。

また、この映画に登場するスケキヨが恐らく世間一般に認知されているスケキヨになるのではないでしょうか。

原作を読んでると「なんか違うような・・・」という違和感もありますが、インパクトはありますし成功しているのではないでしょうか。

それと、原作を知らない人がこの映画を観ても普通に面白いのではと思います。

映画単体、原作単体でも面白いですが、そこから両方を見るとなお面白さが増すような気がします。

 

実写化するにあたり、自分は一番造形が想像出来なかったのは珠世だったんですが、この辺は映画ならではの世界観とマッチしていました。

原作だと超絶の美女、ということになっていますが映画では「超絶の」という風にはなっていませんからね。

その上で犬神家特有のドロドロさはしっかり感じましたし、勿論原作の方が事細かに書かれているのでより犬神家の異常さが分かるとは思いますが、丁度いい塩梅だったのではないでしょうか。

 

ちなみに、自分が一番好きだったのは実は最後のシーンです。

事件は思わぬ形で落着し、金田一が町を去ることになるわけですが、これが映画特有の金田一らしさが出ていてとても好きでした。

汽車のシーンで終わると言うのも昭和の映画らしくてとても良かったです。

 

ということで映画『犬神家の一族』最高でした。

犬神家は他にも映像化されてますし、石坂浩二の演じる『犬神家の一族』がこの後にも撮られているようですね。

それも観てみたい気もしますが、自分的にはこれだけで十分な気もしてしまいます。

いずれにせよ、金田一作品は他にも鑑賞したいと思っています。

勿論、原作の方も引き続き読んでいきたいと思います。

 

 

『二人で探偵を』 / アガサ・クリスティ

 

更新をサボり過ぎて読了した順番がよく分からなくなってきました。

なので、とりあえず最後に読了した作品の感想から。

 

早川書房から出ているクリスティ文庫では『おしどり探偵』をタイトルで出版されていたため、こちらの『二人で探偵を』というタイトルは未読の私にも馴染みがなかったのですが、創元推理文庫は元々こちらのタイトルで出版していたそうですね。

なので、中には『二人で探偵を』というタイトルの方が親しみがあるという方も多いみたいですね。

 

そして、読み始めるまで短編集だということも知らなかった本作です。

自分はクリスティ作品が大好きですが、<トミーとタペンス シリーズ>は昨年刊行された新訳版『秘密組織』まで読んだ事がありませんでした。

 

wakuwaku-mystery.hatenablog.com

その新訳版『秘密組織』の巻末で、「次作も新訳版で刊行する予定です」と書いてあったので、出版されるのを待っておりました。

ということで発売早々購入してすぐに読みました。

 

と言っても感想が書きにくい作品ですね。

一つ思ったのは、探偵小説の楽しみ方の原点みたいな作品だなということです。

ずば抜けた面白さは無かったんですが、古き良き探偵小説と言った感じで、中学生の時にホームズシリーズを読んでいた時と同じような感覚になりました。

 

前作もそうですが、トミーとタペンスがとにかく良いコンビで、まさに阿吽の呼吸で様々なピンチを脱するハラハラした展開もあれば、それぞれの鋭い所が発揮されて爽快感がある話もあり、また二人の失敗談もあります。

そして、実は最後の話にちょっと感動してしまったり。

 

読み終わってみると、自分は『二人で探偵を』というタイトルの方がピッタリだなと思いました。

二人にとっては一時の夢物語のような話で、その終わりも二人らしい素敵な展開だったと思います。

探偵小説に登場する様々な探偵になりきろうとするトミーですが、自分が知らない探偵も多く、改めて参考になりました。

一方、推理小説に読み慣れた方にはミステリーとしては弱い作品かもしれませんが、是非原点回帰されたい方には推したいと思える作品でした。

 

 

ところで、今回は次作の案内が無かったのですが。

是非次作も創元推理文庫から新訳版を出してくれると嬉しいです。

 

 

 

 

『二人で探偵を』

★★★☆☆  /  (3点)

『愚行録』 / 貫井徳郎

 

こちらも読了してか一か月くらい経ってしまいました。

書店で『慟哭』と一緒に期間限定のプレミアムカバーで平積みされていたのが目に留まりました。

 

本作を知ったのは実は映画が先になります。

と言っても、自分は映画の方を観ておりません。

以前、M-ON!Pressで連載していた「みんなの映画部」という企画がありまして、それを読んだのを覚えていました。

 

ただ、その連載の中で語られていた感想とは大分乖離した内容という印象でした。

作品の構成としては以前紹介した恩田陸の『ユージニア』とも似ていますね。

どちらが先かよく知りませんが。

とある一家殺人事件を様々な人たちの視点から語ってもらいながら進行していく作品です。

 

『ユージニア』は様々な人たちが語る内容の一体どこに真相が?という感覚で読んでいましたが、本作はそれとは異なります。

『ユージニア』と異なり最終的に一家殺人事件のあらましは大体判明することになる訳ですが、『愚行録』の登場人物たちが語る内容は殺人事件の事とは殆どが関係ない事ばかりで、殺された被害者夫婦が一体どういう人たちだったのか?ということが様々な被害者夫婦の関係者の視点から徐々に分かってくることになります。

実はその関係者の中に重要な人物が紛れていたりもするのですが、「まさか!」という衝撃はありつつも、何故かその人物の事は印象に残っていました。

これは貫井徳郎がそう印象付けるために描いたのか、それとも単に自分の中で何かが引っ掛かっただけなのか、それはよく分かりません。

 

そして恐らく本作で大事になるのは一家殺人事件の真相ではなく、一方的に語られる被害者家族と被害者について語る関係者、そしてそこで浮かび上がってくる両者の人間性なんだと思います。

面白かったのは男と女で語る内容が微妙にズレていることでした。

それと、そんな様々な人間たちの人間性が浮かび上がってくる本作のタイトルが「愚行録」だということ。

 

ある意味、読後に自分の中に残るものは何ひとつ無いのかも知れません。

でも、それがこの作品の真骨頂と言えるかも知れませんね。

映画版はどんな物なんでしょう。

あまり観る気にはなれないな。

 

余談ですが、作者はてっきり慶応卒かと思ったら早稲田卒なんですね。

 

 

 

『愚行録』

★★★☆☆  /  (3点)