自分が買った文庫は表紙が違うものでした。
でも、こっちの表紙の方が好きかもしれません。
金田一耕助シリーズの4作目です。
角川文庫のシリーズですとファイル1ということでシリーズ1作目になっているようです。
なんですけど、途中に『夜歩く』の話が少しだけ出てくるので、時系列的、あるいは刊行順的には『夜歩く』よりも後のお話になります。
ただ今自分が読んでいる限りだとどこから読んでも問題なさそうです。
迷っている方はファイル1と題されている『八つ墓村』から読むのはアリだと思います。
さてさて、お盆に読むなら『八つ墓村』かなとは何となく思っていましたが、丁度タイミングよく読むことが出来ました。
金田一耕助シリーズで言えば、今まで全く観てこなかった自分でも『八つ墓村』と『犬神家の一族』は何となくは知っていました。
ただ内容については全く知りませんでしたので、完全に初見での本作となりました。
何が一番の衝撃だったかと言えば、プロローグに出てくる要蔵の残虐さ、変態さ、不気味さ、そして理不尽さです。
ネタバレ感想は後で書くとしても、正直このプロローグの衝撃さに最後まで引っ張られた気がします。
金田一耕助シリーズでは昔の田舎特有のしきたりやら人間性やらを真ん中に据えた民俗学的事件が色濃く描かれていますが、本作のプロローグもまさにそれに当たります。
プロローグだけでなく、本編もそうなんですけどね。
さて、刊行順でいくと前作にあたります『夜歩く』はトリッキーな作品でしたが、本作は本格推理小説な内容になっています。
ついつい民俗的な不気味さや奇妙さに意識がいってしまいがちですが、事件の解決は勿論そんなファンタジーでは終わりません。
極めて論理的な真相の解き方が提示されます。
ただし、本作の場合は疑わしい人物が次から次へと出てきますし、意味深なセリフも多かったりと惑わされがちです。
不気味さとミスリードの連続で真相がぼやけてしまいますが、謎解きに重きを置く方は丁寧に事件の事実だけを読み解いていくことをオススメ致します。
本格推理小説としても勿論楽しめるんですが、やっぱり金田一耕助シリーズの特徴的な雰囲気が一番の魅力だと思います。
これはどの作品もそうだと思うんですが、昔の地方特有の地域性が創造する独特のしきたりや住民性、それに付いて回る伝説やおとぎ話、更にそれに振り回される村の住人と犯人たちというこの関係性はどの作品も変わらない魅力だと思います。
本作でもプロローグの要蔵もそうですが、その要蔵が起こした事件故に恨まれる主人公と恨む住人達という構造は昭和ならではの鬼気迫るものがあります。
本格推理小説としても楽しめますが、民俗学的ホラーとしても十分楽しめるかと思います。
そうそう、プロローグのインパクトが強くエピローグの事をすっかり忘れていましたが、本作は今まで以上に後味の良い終わり方になっています。
あれだけ凄惨な事件が起きた後にも、この物語の主人公にはそれ故に手に入れた物が余りあるほどあったのです。
それは一体何なのか。
こればかりは是非読んでお確かめください。
先にも述べた通り、『八つ墓村』と言えば金田一耕助シリーズでも特に有名な1作かと思います。
有名なだけあって、やはり面白さはそれだけで担保されていると言って良いかと思いますし、現代で読んでも色褪せることのない面白さがあります。
これが角川文庫のシリーズだとファイル1になっているというのは納得です。
何故ならこれを読んでしまったら最後、金田一耕助シリーズの魅力にきっと魅了されてしまうことでしょう。
まさに名作でした。
★★★★★ / (5点)
ここから少しだけネタバレ感想を。
本文でも述べた通り、プロローグにある要蔵のインパクトがとても強いんですが、全ての諸悪の根源と言ってもいい要蔵の話をもっと突っ込んで描いて欲しかったです。
というのも、あれだけのことをしておきながら、裁きとしてはぬるく感じてしまうのです。
あれだけ残虐的なことをしておきながら誰も反発出来ないというところに時代を感じますが、やっぱりそれに対する天罰は欲しかったところです。
江戸川乱歩といい横溝正史といい、エログロはある意味欠かせない要素だというのは分かりますけどね。