この本が1989年に書かれていたというのですから、まずそれが驚きです。
現実の世界からバーチャルの世界へ意識ごと転送されるワクワクと恐怖。
そして現実とバーチャル世界の曖昧な線引きに読んでいて自分も訳がわかなくなってきます。
仕掛けられているトリック自体には読者は誰しもが気づくと思うんですが、そもそもどこからがトリックなのか、誰の言葉は信じていいのか、そして何が本当の現実なのか。
疑えば疑う程に沼にハマっていく感覚です。
一体どういう風にこの物語は決着するのだろうと期待していましたが、思っていた以上に重たい結末でした。
なるほどこういう風に着地しますか、と。
ある意味では『ドグラ・マグラ』にも近いような気がします。
この結末ありきで物語を振り返ってみると、また違う面白さが味わえそうです。
途中まではサスペンスっぽい部分はありつつも、主人公とヒロインは学生ですので青春要素もあったり、そういう「お話」としても読めるようになっているので、読みやすさはあるかと思います。
終盤に差し掛かったあたりでは陰謀論が巻き起こったり、新たな登場人物が出てきたりとまた盛り上がりをみせるのですが・・・。
主人公が真相に近づいてから物語の印象がガラリと変わります。
それでも、あんな結末になるとはね・・・。
最初にも書いた通り、この本が1989年に書かれていたことが驚きです。
でも、正直それだけです。
物語としての面白さ、トリックとしての素晴らしさ、登場人物の魅力、等々はいま一つだったような。
ただ読み終わった後に感じる哲学的な後味を味わうだけでも、この本を読んだ意義はあったのかなと思っています。
『クラインの壺』
★★★☆☆/ (3点)