アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

虚無への供物 / 中井英夫

 

日本三大奇書の一つにして、自分が読む最後の三大奇書になります。

 

思えばこの作品を知ったのは当ブログの最初の記事にもなっています、『月光ゲーム』(有栖川有栖=著)のおかげです。

『月光ゲーム』の冒頭で我らが名探偵の江神二郎が持っていた本が『虚無への供物』だったんです。

その時から興味を持っていました。

 

アンチミステリーという触れ込みで読み始めた本作ですが、上巻を読み終えた時点では「全然ミステリーしてるじゃん」という感じでした。

下巻になると物語は余計複雑になってきて、登場人物たちは関係あるのか関係ないのかよく分からないような話をしだします。

また、各登場人物たちが思うがままに突っ走って行動し出す部分があり、読んでいて「頼むから落ち着いて説明してくれ・・・」という気になってきます。

もうこうなるとミステリーではあるんですが、各人が名探偵を気取りだすので、余計真相が分からなくなってきます。

やれ「四次元」だの「ワンダランド」など、読み終わっても意味不明です。

かと思えば、各名探偵気取りの探偵役たちが推理した内容が実は交わっていたのかも知れない・・・なんてことになってきて、物語は余計に混乱を極めます。

一体これはどうやって着地するのだろう・・・と思っていたら・・・正直肩透かしでした。

 

自分の中でのピークは各人が推理を披露して、第2の事件が起こるところまででした。

あの場面は『毒入りチョコレート事件』(アントニー・バークリー=著)みたいで楽しかったです。

ただ全てを読み終わってから物語を振り返ってみると「一体何を読まされていたんだ・・・」という気持ちになってしまいます。

まさに「虚無感」です。

勿論、この本で伝えたいメッセージはよく伝わってきます。

この本のテーマはまさしく「アンチ・ミステリー」だったのです。

これはある意味発明的な発想でスタンディングオベーションが巻き起こるような話だとは思うんですが、そういった文学的な解釈の揚げ足取りには自分は興味がありません。

ただし、やっぱり意義は感じます。

 

自分がこの先読み進んでいく予定のエラリー・クイーンだって、まさにこの「アンチ・ミステリー」の葛藤に悩まされていくことになっていくことになると聞いています。

正直、そんなエラリー・クイーンは見たくないというのが自分の今時点での正直な意見です。

探偵はどちらかと言えば神がかり的な存在であってほしいです。

 

閑話休題

 

ということで、「アンチ・ミステリー」になっている本作でも事件がいくつか起こりますが、真相が示された今も自分は第3の事件だけが納得いっていません。

でも、そんなことどうでもよくなるくらいに、ある意味衝撃的な結末です。

あとがきの三島由紀夫の話は面白かったです。

 

 

好きかどうかで言えば、自分は好きとは言えない作品でした。

ただ何度も言うように作品の意義はすごく感じます。

この本を何度も読みこんだ江神二郎や、中井英夫を最高と言った学生アリスは、真の推理小説好きなのかも知れません。

自分は他の中井英夫の作品は読んだことないので、作者としての評価は出来ませんが・・・。

 

 

三大奇書の中では一番読みやすくはありましたが、一番自分には合わなかったのが本作だったかも知れません。

ただ三大奇書の中で一番真っ向から「アンチ・ミステリー」をやっているのは、本作で決まりでしょう。

あとがきにも書いてある京極夏彦先生の「終わることで始まる呪縛は、今も持続している」という本作に対するコメントが全てを物語っている気がします。

 

 

 

『虚無への供物』

★★★☆☆ / (3点)