国名シリーズの3作目です。
あとがきの法月綸太郎氏の解説によれば、作家エラリー・クイーンとしてのアマチュア時代最後の作品らしいです。
前作の『フランス白粉の謎』の時点で既に解決のロジックが見事なものだと思っていたのと、名作としてよく見るタイトルだったこともあり、期待値のハードルは高かったのですが、ハードルが高い時ほどその期待を下回ることが多いのが何とも言えません。
残念ながら本作もそうでした。
と言っても別に面白くなかった訳ではありません。
ただ拍手して「名作だ!」と言い切れるだけの作品ではなかったと感じただけです。
物語の流れとしては今までで一番読みやすかったです。
それは初っ端からエラリーが登場しているからなのかも知れません。
無駄な描写が殆ど無いように感じました。
それでも個人的に物語としての単純な面白さを比較すれば『フランス白粉の謎』に軍配を挙げます。
この辺は個人差が出るところでしょう。
そして、やはりエラリー・クイーンと言えばロジカルな解決方法です。
今作でもそのやり方は健在です。
ただここは翻訳の問題がちょっと引っかかりました。
エラリーの解決方法はお見事だとは思うのですが、ある単語の翻訳はちょっと別の表現の方がよかったのかなと。
原文を読んでいないので何とも言えないのですが、直訳じゃなくても良いので別の表現のがすんなり読めたような気が個人的にはしています。
まぁそれは置いておくとして・・・。
エラリーの解決方法は至ってシンプルで、且つ実はトリックもシンプルです。
エラリーが解決を次々に喋っていきますが「なんでそんな事に気づかなかったんだ・・・!」という溜息の連続です。
ここは本当にお見事だと思いますし、逆に鋭い読者は幾つかの事実は気づきそうではあります。
自分は全くでしたが。
今回は2つの殺人事件が起こりますが、2つ目の事件は解決後に振り返るとちょっとお粗末に思えなくも無いかも・・・。
あと、終盤エラリーはある事実が符合しないために酷く悩むことになるんですが・・・。
それはある人物が取った行動が起因となっているのですが、誰もがそれを些細なことだと思って発言しません。
このある事実を一言「そういえば・・・」と誰かが言い出せば、エラリーはもっと早く、しかも悩むことなく解決出来たのかと思うと、ちょっと不自然な気はします。
それと、これはちょっと色々なレビューを読んでいて確かにそうなだと思ったことなんですが、全員の靴のサイズを調べろよと。
『ローマ帽子の謎』の時は頭のサイズの採寸をやっていましたからねぇ。
これは確かに不自然です。
読めば分かりますが、靴の事に固執するのはエラリーだけです。
そこにヒントが隠されています。
全体的にはやっぱり名作と言われるだけの面白さはあると思いつつも、派手さが無いからか、もう一つグッと来るものが欲しかったかなと。
ロジカルに解決するからこそ、逆にロジックを組み立てるのに不自然な構成になっている感が自分には否めなかったのがマイナス要素でした。
それと、やっぱり登場人物の描写が弱い気がします。
本筋とは関係ないですがエラリーが「驚き桃の木だな!」なんてセリフを言ってるんですが、正直違和感が。
原文はどうなってるんだろ。気になります。
それはともかく、本作もナンダカンダ言いつつも十分面白かったですけどね。
『オランダ靴の謎』
★★★★☆ / (4点)