以前にもこのブログに書きましたが、幸運な事に(と自分は思っています)自分は金田一耕助シリーズの映像作品を一つも観たことがありません。
それでも逆さまで足を天に伸ばしたスケキヨの格好は知っていました。
(ちなみに自分はクレヨンしんちゃんで初めて知ったような気がします)
それほどに有名な作品だと思います。
恐らく『獄門島』や『八つ墓村』よりも有名な作品なのではないでしょうか。
読後にWikiで見たところ、「日本映画の金字塔」なんて文句もあるようです。
それほどに知名度もあれば、作品としての完成度も高いということなのでしょう。
さて、そんな本作品の個人的な評価ですが、抜群に面白かったです。
これまで読んできた金田一耕助シリーズの中では圧倒的に一番面白かったと個人的には思っています。
当時の時代背景、奇妙な事件、王道的な遺産を巡ってのドロドロした模様、殺伐とした一族の関係、そして物語としての面白さ、どれを取っても個人的には完ぺきでした。
勿論これってご都合主義じゃない?みたいな部分が無い訳ではありません。
しかし、そんなことどうでもよくなるくらい物語に没頭してしまいました。
冒頭の一族の始まり部分から既に夢中でした。
「これこれ!」と言いたくなるような王道的な一族の繫栄をもたらした翁と、翁が残した遺産を巡る葛藤、その裏に潜む一族の秘密など、とにかく飽きることない流れでした。
当時の日本らしい特有の文化ですとか、性的描写、思想なども物語の世界観をより一層深めてくれます。
この日本の当時の情景や日本人としてのあり方が読み取れる場面も個人的な好きです。
登場人物も、一部端役に甘んじているキャラも居ますが、はっきり言ってどいつもこいつも真っ当な人間が殆どおらず、かえってそれが面白さを引き立ててくれます。
特に、キーマンである珠世がとても面白い働きを見せてくれました。
ミステリー小説には不自然なほどに美人が登場しますが、自分が読んできた中でも恐らく一番美人なんだろうなと想像してしまう美女です。
頭の中で姿形が思い浮かべなかったのが自分の中で物凄く面白く、興味深かったです。
容姿もさることながら、本心が読めない(薄々分かりはしてましたが)その態度も、余計に興味を掻き立てられました。
事件のトリックの一部に関しては、恐らく大体の人が勘付く所があると思います。
でも、何でそんなことになったのか、それが分かりませんでした。
この物語を一番面白くさせているのは、やはりそれぞれの動機にあると思います。
また、事件をややこしくさせる要素として後半明らかになる複雑な登場人物の相関関係もあると思います。
特にある人物が登場した際に「きっと只者ではないのだろうな」とは思っていましたが、まさかまさかそんな人物だったとは夢にも思っていませんでした。
そういった「実は・・・」という事実の浮上が後半ポンポン出てきます。
そこからがクライマックスの始まりです。
読み終わってから振り返ってみると、登場人物のほぼ全員が悲しい宿命を背負った、薄氷の上に繁栄を築いた一族の悲しい物語だったような気がします。
ほぼ全員が人間の嫌らしい一面を見せますが、そこに付け込んで頭から非難する気にもなれないような、そんな複雑で悲しい一族の物語でした。
ちなみに、先ほど珠世のことを「今まで読んできた中で一番の美人」と表現しましたが、自分が想像出来る限りで一番美人で印象に残っているのは『ナイルに死す』のリネットです。
何故かはわかりませんが。
閑話休題。
兎にも角にも、これが金田一耕助シリーズの代表作であり、看板作品であり、誇れる作品なんだと完膚なきまでに納得しました。
これを読んでしまうと、この先もやっぱり金田一耕助シリーズが読みたくなります。
時代を超越した古き良き素晴らしい日本のミステリー小説を読むことが出来て、本当に満足です。
横溝先生、本当にありがとうございます。
★★★★★ / (満点)