和製推理小説の古典物としていずれ読まなければと思っていた中の一冊です。
短編集で全部で8話収録されております。
特に注目していたのは最初に収録されている「DL2号機事件」でした。
購入するまですっかり忘れていたのですが、この話・・・というかタイトルってゲームの『逆転裁判』に出てくる「DL6号事件」の元ネタだったことを思い出したからです。
確かに「DL2号機事件」と「DL6号事件」にはある共通点がありました。
それが面白いなと思いました。
ただし、お話としては「DL2号機事件」はそれほど面白いと思いませんでした。
これは全編通して自分が感じたことですが、これは本格推理小説というのとはちょっと違うのかなと。
何となく古典物=本格推理小説という先入観があったんですが、最近になって「古典物の方が『推理』よりも『小説』に重きが置かれている気がする」と気づきました。
飽くまで個人的な主観ですし、まだ古典物を読み漁ったとは言えないので断定はできませんが。
ただこの作品、何だか妙な魅力を感じます。
最初の「DL2号機事件」は肩透かしで、興味が薄れてしまっていたのですが、読み進めて行く内に最終的には好きになってしまいました。
探偵役の亜愛一郎は登場シーンからして「本当にこいつが探偵役なの?」と思ってしまうくらいの奇妙な人物ですが、段々とその鋭さに期待している自分が居ました。
探偵役は周りに舐められているくらいの方がかえって面白いのかも知れません。
亜愛一郎の元になったのはブラウン神父とのことですが、自分はまだブラウン神父の作品は読んでないので、その辺はよく分かりませんでした。
そんな8篇が収録されている本作ですが、自分が好きなのは最後の2編です。
「本格推理」に最も相応しいのは「曲がった部屋」だと思うんですが、最後の2編が「小説」としては特に面白かったかなと。
特に「ボロボの神」はなかなか興味深い話でした。
最終話の「黒い霧」は舞台の描写や世界観も含めて好みでした。
本筋とは関係ないですが、亜の自己紹介が好きでした。
「亜硫酸の亜」、「亜米利加の亜」、「亜鉛の亜」など紹介が微妙に毎回違うのが面白かったです。
個人的には「亜細亜の亜」が分かりやすいのでは、なんて思ったりしていました。
それはともかく、本書で一番興味深かったのは、実はあとがきです。
『幻影城』という推理小説の雑誌が過去にあったというのは自分も何となく知っていましたが、島崎博氏の名前は初めて知りました。
こういう人たちのおかげで今も古典物が読めたりする部分のあるのかなと思うと、ちょっと感慨深いです。
亜愛一郎のシリーズは他に短編集が2作あるようで、亜愛一郎には何やら「正体」があるとか。
これは気になるので是非読みたいと思っています。
その前にブラウン神父を読んだ方が良いのかなぁ・・・。
泡坂氏の作品で、他にも読みたい作品もあるのでそれを先に読むかもしれません。
もっと退屈するかと思っていましたが、意外と楽しめてしまった。
そんなユーモアを感じた一冊でした。
『亜愛一郎の狼狽』
★★★☆☆ / (3点)