自分は本でもあるんですけど、そんなに面白いと思えなくてもやたらとインパクトが強くて忘れられない作品ってないですか?
そんな作品でした。
途中までは「思ってたよりつまんないなー」と思ってました。
期待値が高すぎたかな、失敗したかな、と。
そんな中、まずある人物が言う台詞がまず自分に刺さりました。
「こんな毎日でも、嫌いじゃないんだよね」
フィクションでも、ああいう人物像の人にこの台詞を言わせる。
台詞の内容もそうですけど、その台詞を言った人物の描写を踏まえてこの台詞を受け取ると、ちょっと熱いものがこみ上げて来ました。
そこからは良いシーンが多かったです。
この映画では主人公(森山未來)の半生を現在から少しずつ遡って再生されていきます。
主人公の現在は失った物が多く、でも忘れられないような・・・そう『秒速5センチメートル』の主人公の最後みたいな。
そんな希望を失いつつあるような人です。
そんな人の半生を少しずつ振り返っていくと、過去には彼にも色々な希望があったことが分かってきます。
でも遡れば希望がある、ということは行きつく先は・・・ということになってしまいます。
視聴者側にはそれが分かっているので、それが何とも言えない気持ちにさせます。
もう一つこの映画に欠かせないのがオザケンです。
『犬は吠えるがキャラバンは進む』というアルバムを「犬キャラ」と略すのは知らなかったです。
このアルバム自体は聴いてましたが。
そして、やっぱりオザケンの曲は何でもない日常のシーンにおける幸福度を物凄く増長させる効果があるなと、改めて感じてしまいました。
オザケンの曲がかかるシーンだけ何度も観たいくらいです。
そういえば『犬は吠えるがキャラバンは進む』が再発されるそうですね。
そもそも廃盤になっていたことも知りませんでした。
また改題して『dogs』というアルバム名になっていたことも知りませんでした。
話は少し逸れますが、自分は90年代の生まれなので、青春時代にオザケンが丁度ヒットしたという訳ではありません。
でも、もし自分が80年代後半、もしくは90年代に高校あるいは大学生だったら絶対にフリッパーズ・ギター等の渋谷系は絶対ハマっていただろうと思います。
音楽のこともそうですし、生活様式についても興味深かったです。
そういう視点で観てみると、この映画はちょっと面白かったです。
「渋谷のタワレコって昔はこんな感じだったんだ!」とか、「カセットって浪漫があるよな~」とか。
その年代に生まれたら楽しかっただろうな~という想像と、逆に苦しかっただろうな~という想像が交互に過ぎりました。
音楽の話で言えば、エンドロールで流れたのがキリンジ(もうキリンジじゃないけど)だったのも思わせぶりでしたね。
普段はそんなこと考えないんですけど、今回は自分が得意なジャンルだからか頭に過ったことがあって、もし自分がこの映画の主題歌を決められるとしたら、自分だったら中村一義の「キャノンボール」にします。
冒頭に述べたように、面白い!って思うような映画では無いと思います。
また、深みのある映画でも無いと思っています。
ただ、自分から勝手に深みにハマっていくような、物語の隙間に出来る憶測や想像が自分を沼に沈めていくような、そんな魅力がある映画だと個人的には思っています。
言いたいこと、思っていること、書きたいこと、振り返りたいこと、色々・・・本当に色々あるんですが自分でもまだ整理しきれていない気がします。
ただ一つ言えるのは、この映画を観て良かったということです。
それぞれの時代の文化と移り変わり、伊藤沙莉さん演じるヒロインの不思議と魅かれる魅力、「こんな毎日でも、嫌いじゃないんだよね」という台詞。
中盤くらいからは本当に良い映画だったと思います。
(ところで東出昌大氏演じるキャラは、何であんなに人が変わったのかがよく分かりませんでした)
もう一回観たいとも思いますが、前半が退屈なのと上映館が少ないというのがネックです。
ただ暫くはこの映画に憑りつかれた状態になるかも知れません。
『ボクたちはみんな大人になれなかった』
★★★★☆ / (4点)