アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

電脳山荘殺人事件 / 天樹征丸

 

電子書籍で読みました。

ずっと以前から読みたいと思っていた一冊です。

今年の冬に、特に寒くなってから読もうと決めていたのでこのタイミングでの読書となりました。

推理小説のオススメを調べていても、本格推理小説たちと並んでこの本が紹介されていることもあります。

それくらいに評価が高い作品だということもあったので、期待値は高かったです。

 

そもそも「金田一少年の事件簿」というシリーズ自体が自分は好きでした。

詳しく書くと長くなるのでここでは省きますが、読書に限らず自分の根本的な部分での現在の趣味・嗜好を形成しているのはドラマ版の「金田一少年の事件簿」だと言えると思っています。

 

それはさておき、それほど馴れしたんでいる金田一少年のノベル版ということで、楽しませて頂きました。

ノベル版ということでしたが、個人的には漫画を読んでいるのと同じ感覚でした。

それは別に悪い意味で言っている訳ではなく、それほど漫画とノベル版を比較しても違和感が全くなかったということです。

 

さて肝心の中身ですが、これは推理小説好きの方にも読める作品と言えるのではないでしょうか。

金田一少年というアイコンを除けば本格と言えなくもないと思います。

インターネット上のチャット「電脳山荘」というページで仲良くなった男女がコテージに集まり、『十角館の殺人』よろしく、一と美雪を除く全員がお互いをハンドルネームで呼び合う決まりとなっています。

十角館の殺人』と違うのは、お互い初めて会う人たちなので、お互いの事を本当に全く知らないということです。

このことが、この本のまず第一の仕掛けとなっています。

ハンドルネームは推理小説好き向けの名前となっており、<僧正><アガサ><ワトソン><ぱとりしあ><乱歩><シド><スペンサー>の7人です。

自分はスペンサーというのが有名なシリーズ物だというのは知りませんでした。

また、<ぱとりしあ>も検死官シリーズを書いている作者から来ているとは思っていませんでした。

てっきりパトリシア・ハイスミスから取っているのかと・・・勘違いでした。

<シド>はセックス・ピストルズシド・ヴィシャスから取っているということでしたが、本当は何か推理小説が元になったモチーフがあるのかしら。

あとはまぁ分かりますよね。

 

先にも書いた通りお互い本名を知らなければ性別も知らない、本当の性格も知らなければ年齢だって知らない。

そういうお互いがお互いを知らない状況で次々に起こる殺人。

ただ集められた男女には殺されていく理由に心当たりがあるようです。

その動機を暴くこと、そしてアリバイトリックを見破ること、更に犯人を見破ること。

これが一が挑む今回の事件の謎です。

 

まず動機に関してはある人物が教えてくれます。

犯人は一ちゃんが自力で見破りますが、目星を付けた理由が自分的にはちょっとイマイチ。

一ちゃんは目星を付けた理由として2つ挙げていましたが、特に2つ目の理由が納得いかない。

まぁこれは全編通して言えることですが、この作品が書かれたのは1996年ということでしたので、時代背景から考えるとあり得るのかも知れません。

 

この作品の一番鮮やかなところはアリバイトリックにあります。

このパズルはなかなかお見事だと思いました。

推理小説あるあるですが、なぜか読み進めて行く内に勝手な先入観を持ってしまい、大事な可能性を勝手に放棄してしまうことがよくあります。

そのマジックがこの作品でも起きました。

これが1996年の時点で考えられたトリックだっていうのは、結構凄いことなんじゃないでしょうか。

インターネットがキチンと整備されるずっとずっと前ですからね。

一ちゃんのようにパソコンの知識がなくても普通の時代だと思います。

整備される前のインターネットは楽しかったな・・・。

なんてことはどうでもよくて、現代からするとちょっと幼いトリックも含まれているかも知れませんが、今でも全然納得して読めますし、しっかり騙されました。

とにかくこの作品の肝はアリバイトリックが解けるかどうかにあると思います。

 

この作品、解決編の前に読者への挑戦状が挟まれています。

第一から第五の謎までが提示されますが、第五の謎は一ちゃんではなく読者だけが味わえる謎解きとなっています。

それがどういうことなのか、それは是非読んで確かめてみてください。

ちなみにこの第五の謎だけはそもそも謎が何なのか明確に提示されていません。

でもまぁ、普通に気づくと思います。

だって絶対に普通に読んでたら引っかかる部分があると思いますから。

 

 

全体的には面白かったんですが、展開が早すぎて物語として楽しむにはちょっと短すぎるかなという印象です。

無駄な部分が無いのが良いという人も居ると思いますが、せっかくの金田一少年の事件簿だったので、もう少し物語の方を濃くしても良かったのかなと少しだけ思います。

逆に言えば、金田一少年の事件簿なんか全く知らないよっていう方でも全然読めると思います。

ただボリューム感は正直足りないと思います。

それだけ読みやすいという言い方も出来るかと。

 

物語性はともかくとして、アリバイトリックに関しては満足出来ました。

そういう意味で、やっぱり読んで良かったなと思える一冊でした。

他のノベルもあるみたいですし、自分が知らない事件もあったので、機会があればまた他のも読んでみたいです。

知らなかったんですが、この電脳山荘殺人事件はアニメ化もしているようなので、それも観てみようと思っています。

正直、これ金田一少年の事件簿シリーズじゃなくて、本格推理小説として書いたらもっと面白かったんじゃないかと思ったり。

 

 

余談ですけど、電話ボックスの扉って蹴ったくらいで割れるの?

 

 

 

『電脳山荘殺人事件』

★★★★☆  / (4点)