実は『白夜行』の次に読んだ作品です。
改訂完全版が刊行されたのが昨年でしたでしょうか。
本屋に結構並んでたのを何となく覚えています。
まだ未読だったので「いいタイミングで出てくれたな」と思ったものです。
ラッキーだったと思っています。
結局それから1年近く経ってからの読書となってしまいました。
理由はやはりこの本の厚さです。
改訂完全版だと700ページを超えています。
これ以降見た感じでも長編が続きそうな御手洗潔シリーズですが、面白ければ長さなんか関係ないと分かっていても、なかなか読み始めるまでに重い腰が上がらない状態になっていました。
正月早々仕事だったこともあり、1月の3連休はゆっくりしようと決めていたのでこれは丁度良いやとばかりにこの作品に取り掛かりました。
御手洗潔シリーズは好きですが、この作品は今までの作品とは趣向が異なるような気がします。
本格推理小説・・・と言えばそうなのかも知れないですが、どちらかと言えばホラー寄りになっています。
タイトル通り恐怖のとある木が物語の軸となっていくわけですが、事件の解決編でもこの恐怖の木にきちんと帰って来ますので、あながち単なるホラーとも言い切れません。
ただ、事件の解決編を聞いて残念な意味で「嘘だろ・・・」と呟いてしまいました。
なんというか・・・「嘘だろ・・・」って感じなんです(笑)
語彙力が無いので上手く言えないのですが、その推理は考えなくもなかったけど、それを偶然で片づけてしまいますか、という落ち込みが強かったです。
そう意味では、やっぱりこれは本格推理小説というよりもホラー寄りになるのではないでしょうか。
そのとある偶然を除けば自分が想像もしてなかったような解決も示されており、それは理路整然としていて面白かったです。
特に巨人の家の話しなんか、「なるほどね!」とちょっとワクワクしました。
ただ、全体的に無駄に長いなという感想が否めません。
長さを感じてしまうということは、面白さに欠いて退屈してしまい物語に没入仕切れていないということです。
残念ながら本作はそのタイプの本でした。
ただ島田荘司氏の作品は(御手洗潔シリーズしかまだ読んだことありませんけど)物語の本筋と実は関係ない描写が自分は凄く好きなんですよね。
『占星術殺人事件』もそういう描写がありました。
今回の『暗闇坂の人喰いの木』では御手洗潔ご一行がイギリスを訪れるシーンがありますが、それを文章から頭に想像するその過程はとても充実した時間でした。
石岡君が「日本ではとうの昔に失われた景色だ」みたいなことを語る描写があるんですが、それがとても羨ましくて。
今まで国内はあちこち行ってみたいと思っていましたけど、ここまで海外の景色を見てみたいと思わせてくれたのはこの一言が初めてかも知れません。
本筋の話に戻りますが、全体的には今まで以上に陰惨な話が混じっています。
だからこそ描ける「やるせなさ」みたいなものもあります。
ただ、自分はそこまで余韻に浸るほどの感銘を受けた訳でも無いですが。
そういった本筋の話はもしかするといずれ記憶が薄れていくのかも知れません。
でも、イギリスのシーンの描写は忘れることは無い気がしています。
本筋よりも、本筋と関係ないところでインパクトをくれたりするから御手洗潔シリーズは好きです。
勿論、自分は本筋の方も大好きでしたが、今回は自分にはいま一つだったようです。
それでも、このシリーズはこのまま読み進めたいと強く思える作品であることは間違いありません。
そういう意味では、やはりこの本は読んでおいて良かったと思っています。
そういえば最後の方のレオナの行動の意味が自分には結局よく分かりませんでした。
あれは一体何だったんだろう。
改訂完全版が読めてラッキーでした。
『暗闇坂の人喰いの木』
★★★☆☆ / (3点)