オールタイムベストにもよく名を連ねていた作品でしたので、前から気になっていた作品でした。
5編からなる短編集となっており、全てが恋慕が絡む殺人事件の話となっています。
ミステリー、とは言いますが文章の書き方も雰囲気も文学的で、今までに読んだどの推理小説とも雰囲気が違いました。
恋慕が絡んだ殺人事件、と簡潔に言ってしまいましたが、勿論素直に解決する事件ではありません。
5編が5編とも意外な真実が隠れている訳です。
今回は1遍ずつ点数を付けていきたいと思います。
・「藤の香」 (★★☆☆☆ / 2点)
個人的にはあまり好きではありませんでした。
オチも何となく読めてしまいましたし、何よりも話がイマイチでした。
登場人物があまり好きでなかったのもイマイチな印象を強めたかも知れません。
ただ、陰に人情があるところは良かったです。
・「桔梗の宿」 (★★★★☆ / 4点)
これが意外と好きな話でした。
オチは予想外では無かったですが、伏線も見事に、しかも綺麗に回収されて余韻も凄く良かったです。
それだけでなく、この時代背景から来る当時の遊女の身分や気持ちが切なく、またこの主人公の男も哀愁漂う感じで好きでした。
人形浄瑠璃がヒントになっています。
・「桐の棺」 (★★★★☆ / 4点)
ヤクザ物の話になります。
ヤクザ物の話がそもそも好きなんでしょうね。
これも自分は面白かったです。
ただ、棺に関する発想の転換は面白いと思ったんですが、他にどうにかする手があったんじゃないか?と思ってしまいます。
この話の男女の心情は一筋縄では理解出来ません。
・「白蓮の寺」 (★★☆☆☆ / 2点)
これはこの話に限ったことではないんですが、忘れていた記憶が夢で断片的に呼び起こされる・・・みたいな話は基本的に苦手です。
その描写自体がクドイのが嫌ですし、そもそもが回りくどく感じてしまいます。
てっきり『姑獲鳥の夏』みたいなことになるのかと思っていましたが、違いました。
個人的には一番面白くなかった話です。
・「戻り川心中」 (★★★★☆ / (4点)
この話だけ別格、みたいなレビューを読んだことがあったんですが、なるほどね・・・という感じです。
天才歌人の恋慕に纏わる話ですが、これはある意味ミステリーの発明だったのかも知れません。
「桐の棺」と同じかそれ以上の発想の転換が必要となります。
ある意味この短編集全体のテーマを逆手に取った見事な作品でした。
とにかくミステリー好きなら一読の価値があると思います。
このお話は映画化されているようですね。
全体的には色んなところのレビューで書かれている通り美しく、文学的な推理小説でした。
江戸川乱歩や横溝正史とはまた違った日本特有の世界観が美しく描かれているということで、ミステリー小説としてはそれだけでも評価されて良いのではと思います。
この本、解説も凄く良かったので是非そこまで読んでほしいです。
そこまで読んで完結、と言っても良い気がします。