今年に入って金田一耕助シリーズをまだ読んでいませんでした。
しかし、自分の趣味・嗜好の原点ともいえるドラマ版『金田一少年の事件簿』が再放送されたことに触発されて、久々に手に取りました。
タイトルだけは読む前から知っていた『悪魔が来たりて笛を吹く』です。
タイトルの通り、悪魔と思える人物が出てきますが、自分は加害者よりも被害者の方が悪魔に思えてなりません。
導入部分は今までで一番入りやすかったかも知れません。
今まではやたらと美人が登場する金田一シリーズでしたが、今作の依頼人である女性は自分でも皮肉な表現をする美人とは言い難い女性です。
しかし、自分はこの依頼人である美禰子は非常に好きなキャラです。
芯が強く、信念を持っているように感じられる人として強い人物です。
特に今作では没落寸前とも言える貴族、斜陽族が中心となる物語でありますが、この斜陽族の連中は本当に人としての弱さが見事に表面化している人物ばかりです。
そんな中、同じような立場にある美禰子あるいは一彦はその人たちを何処か軽蔑し、自分自身の力を蓄えようとしている気概が感じられて、対照的な構図ということも相まって非常に好感が持てました。
この美禰子の強さが一見後味の悪い本作に光を差す存在になっていると思います。
本作も金田一らしいドロドロしたミステリーですが、トリックで勝負、といったような作品ではありません。
そもそもトリックで勝負してたのは時系列順に言って本作までで『本陣殺人事件』と『獄門島』だけのような気がします。
ただ、優れたトリックを用いていないからと言って優れたミステリー小説ではないと言うことにはならないと思います。
これは本作のレビューでも同じような事を書いている人がいました。
何が言いたいかと言えば、自分は本作は名作と言える作品だと思っています。
金田一特有の不気味さ、複雑な相関図、話の展開、そしてこの秀逸なタイトル、全てが見事にハマっていると思います。
正直、犯人は何となくピンと来ると思います。
その正体も正直推測が出来ると思います。
ただそんなことがどうでも良くなる程、真実が分かった瞬間の圧倒的衝撃が未だに忘れられません。
恐ろしいながらもその衝撃は個人的には甘美でした。
犯人が分かるまでの伏線も意外と凝ってるんですよね~。
振り返るとその辺りも面白いですね。
ただ、金田一特有の複雑な人物相関図に四苦八苦しました。
六本木のお屋敷に集まった人くらいなら分かりますが、金田一が西に行った辺りから出てくる人物の整理をする為に何度かページを戻る羽目になりました。
おこまやらおたまやらおすみやら、治雄やら小夜子やら植辰やら植松やら…。
「あれ、こいつ誰だっけ?」「あれ、こいつどういう関係だっけ?」
一気読みではなかったことも相まって、こんな感じで何度か戻りました。
ただ、この人物相関図の整理はやっておいてとても良かったです。
これから本作を読む方は是非相関図を頭の中でまとめながら読むことをオススメ致します。
いやー本作もメチャクチャ面白かったです。
映像作品を一切観てなくて本当に良かった。
この結末が気持ち悪いと感じる人も居るでしょうが、悪魔が誕生する理由としてはかなり説得力のあるドス黒さがかえって自分は清々します。
それもこれも、美禰子の強さがあってこそなんですけどね。
強いて言えば、中盤が個人的には中弛みしました。
余談ですが、本作を読んでライトノベルの『紅』の世界観を思い出しました。
これって、ちょっとネタバレかも…。
『紅』の最新刊もそのうち読まないとな~。
★★★★★ / (5点)