ここまではずっと創元推理文庫から出版されている新訳版で読んでいた「国名シリーズ」ですが、今回から角川文庫版となりました。
本当は新訳版で読みたかったところですが、残念ながら創元推理文庫で出ている新訳版は現時点で一つ前の『アメリカ銃の謎』までだったので、断念しました。
本当は「新訳版出ないかな・・・」と少しだけ粘っていたんですが、ついに待てませんでした。
という訳で『シャム双子の秘密』です。
国名シリーズもここまでは絶対読みたいと思っていました。
それは何故かと言えば有栖川有栖の『月光ゲーム』に本作の舞台がオマージュされていると読んだからです。
『月光ゲーム』は自分の中でも特に気に入っている作品の一つでしたので、そのオリジンとも言える本作はどうしても読みたかったのです。
ところが自分、この「シャム双子」ですとか「シャム双生児」という言葉の意味を全く知らずに読み始めましたので、その意味が分かった時はちょっと驚きました。
「江戸川乱歩の『孤島の鬼』と同じだ!」って。
(もしかしたら『孤島の鬼』の作中に同じ言葉が出てるかもしれませんが、全く覚えていません)
今思えば、そこがこの作品のピークでした。
確かに『月光ゲーム』の舞台と酷似していて、どうにもならない自然災害によりクローズドサークルとなった状況の中で殺人事件が発生するという内容です。
ただ『月光ゲーム』では前触れもなく襲い掛かる自然災害による恐怖と得体の知れない殺人事件が起こる恐怖とが上手く混ざって見事に相乗効果を生んでいた事に対し、本作でのそれは「自然に対する恐怖」と「殺人に対する恐怖」ではっきり分かれてしまっていたように思います。
というか「殺人に対する恐怖」という意味では、序盤にはありましたが中盤以降は殆ど感じられなかったような・・・。
別に本作では相乗効果なんて狙ってなかったのかも知れないですけどね。
登場人物は少なくて読み易くはあるんですが、自然災害はともかく殺人事件の方は前半でエラリーが解き明かす死体が握っていたトランプに関する謎を解き明かして以降はこれといって面白味もありませんでした。
特に終盤で犯人を炙り出す場面はどうもしっくり来ませんでした。
まず自然災害がそこまで迫っているのにそんなことしてる場合なの、というかどんな体力してんだよ・・・。
てっきり自然災害は解決の出口が見えていることをエラリーだけが知っていて、それで冷静に、得意げに語っているのかと思っていました。
それから犯人の癖に関しては推理というか推測というか、とにかく曖昧模糊としたもので犯人がエラリーの罠に見事に引っかかる確証がなかったのでは、というのが気になります。
解決の仕方がちょっと雑では・・・。
あと、これは本作に限らずなのかも知れないですが、登場人物の魅力が乏しい気がしてなりません。
自然災害は奇跡としか言いようのない、何の前触れもなく、しかも呆気なく解決しますが、それはまぁご愛嬌でしょう。
反面、本作で面白かったのは、二転三転と推理を修正されるクイーン親子という珍しい様子が見れたことです。
ただ、ダイイングメッセージに関する二転三転は「それって難しいんじゃ・・・」という気がしていたので、もっと早く気づけよと内心ツッコミを入れていました。
あと終わり方が呆気ないのが結構気に入っています。
これは国名シリーズは全部そういう作りになっている気がします。
後日談が妙に長ったらしかったりするのがあまり好きではなく、「この後どうなったのか気になる~」くらいの呆気ない方が自分は好きです。
全体的に大味な感じが否めず、面白味に今一つ欠ける印象です。
ただ登場人物は少なくて読み易いですし、自然災害のシーンはなかなか緊迫感がありました。
殺人事件に巻き込まれる人々よりも自然災害に巻き込まれた人々の様子の方が面白いというのがある意味問題かも知れません。
これを読んで改めて思ったのは『月光ゲーム』って完成度高い!ってことです。
クイーンの方が現実的な気はしますが、『月光ゲーム』の自然と殺人による恐怖の中で、しかも青春ドラマがきちんと描けてるって物凄いことなのでは。
そう考えると、本作を読んだ意義はきちんと自分の中で見つかった気がします。
ところでクイーンの「国名シリーズ」ですが、一体この後のどこまでが「国名シリーズ」になるのでしょうか。
『スペイン岬の謎』までとするものもあれば、『中途の家』を挟んで『ニッポン樫鳥の謎』までとするものもあるようですが・・・。
よく分かりませんが、とにかく次の『チャイナ橙の謎』も読もうと思っています。
『シャム双子の秘密』
★★(★)☆☆ / (2.5点)