今回『Xの悲劇』を再読したのには理由があります。
それは今月に創元推理文庫から『Yの悲劇』の新訳版が出るということで、それを手にする前に再読しておきたかったからです。
そういった理由が無くとも、いずれ再読したいと思っていた一冊ではあります。
そもそも最初に本作を読んだきっかけは有栖川有栖の『双頭の悪魔』に端を発します。
最初に読みたいと思っていたのは『双頭の悪魔』だったのですが、それがシリーズ物の3作目であることを知り、それならシリーズ1作目から読みたいと考えました。
そこでシリーズ1作目は何だろうと調べてみると『月光ゲーム』という作品であることが分かりました。
ところがそれで早速『月光ゲーム』を読むということにはなりませんでした。
何故なら『月光ゲーム』に付いた副題である「Yの悲劇’88」というタイトルが気になったからです。
『Yの悲劇』がエラリー・クイーンの名作と言われていることは知っていましたが、読んだことはありませんでした。
それならば『Yの悲劇』を含む「悲劇4部作」を先に読んでしまおう。
そう考えて手に取ったのが『Xの悲劇』でした。
最初に読んだ時のインパクトは今でも忘れません。
今まで読んだ推理小説の中で最も論理的で、何より探偵役のドルリー・レーンが格好よくて。
そして作中の雰囲気が何より大好きでした。
実は本作こそが自分が初めて読んだエラリー・クイーンの作品だった訳なんですが、現時点でエラリー・クイーンの作品の中で最も好きな作品です。
こう書くと不幸とも取れますが、自分にとってはこれが最初の作品なんて最高にラッキーだったと思っています。
先にも書きましたが、とにかく雰囲気が好きです。
それはドルリー・レーンの為せる技なんだと思いますが、全てを見透かしているような神の如き探偵役であり、紳士でもあるミスター・オールド。
正直惚れます。
実際には全てを見透かしている訳でも、勿論神の如き閃きがあるという訳でもなく、ただただシンプルかつ論理的に事件を俯瞰して見渡しているだけだと言うことが解決編で明らかになる訳ですが、警察の上を愉快に行ってしまう所業にはひたすらワクワクさせられました。
探偵側も見事ですが、発生する事件も魅力的でした。
幾つか事件が起きますが、やはり最初の事件が一番面白かったな~。
国名シリーズでは登場人物の描き方が淡白なのが気になっていましたが、本作では全然そんなことないです。
だからこそ特に最初の事件が活きているような気がしています。
また、最初の事件の被害者ロングストリートは同情出来る人物で無かったということが良い方向に働いてくれたような。
二つ目の事件も描写が細かくなっていて、ちゃんと読者にヒントは与えられてるんですよね。
勿論自分みたいなぼんくらはそんなヒントに気付かず、「どうなんの、これ!?」とドキドキ、ワクワクしてました。
余談ですがフェリーで通勤するって、ちょっと憧れます。
この二つ目の事件が一区切り付くまでは、ドルリー・レーンの能力はサム警視とブルーノ地方検事に疑われています。
それもまた面白いんですよね。
探偵役は駆け出しの信用されてない時にアッと驚かせる力を発揮して周りを認めさせる、その最初の過程が一番面白い時だと思ってます。
ドルリー・レーンにとってはそれがこの二つ目の事件になりますね。
裏を返せば、ここがある意味自分にとってのピークだったかも知れません。
言い方は悪いですが、サム警視とブルーノ地方検事は良い引き立て役だったので
その二人が大人しくなるのは読者としては愉快でした。
その後も事件は起き、あとは解決に向かってまっしぐらです。
タイトルの「Xの悲劇」というのがどういう意味なのかが最後の最後、クライマックスで回収されます。
これに関してもお見事でした。
「なるほど、そういうことだったのか!」と感嘆とした気持ちで読了したのを覚えています。
何だかこの作品の感想はいつも以上に上手く書けないのですが、とにかく再読して改めて大好きな作品だと認識しました。
ここまで論理的な「本格推理小説」という括りでは一番好きな作品かも知れません。
日本では『Yの悲劇』の方が人気があると何かで目にした記憶がありますが、自分は断然『Xの悲劇』の方が好きです。
また余談ですけど、再読するまで「デウィット」のことを「デヴィット」だと思い込んでました。
個人的にはクリスティの『オリエント急行の殺人』に並ぶ、何度でも読みたい作品の一つで、このタイミングで再読出来て本当に良かったです。
次は『Yの悲劇』の新訳版ですね。
ちなみにですが、『Yの悲劇』含めここから再読物が続く予定です。
新作物も読みたいのがあるので、交互になるかも知れません。
『Xの悲劇』
★★★★★ / (5点)
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