再開後の一発目は本当は別の作品を予定していたのですが、通勤用で読んでいたこちらの作品が先に読み終わってしまいました。
この「世界推理短編傑作集」シリーズは元々ずっと気になっていて、いずれは絶対に読まねばならないと自分の中で決めていました。
どんなジャンルもそうですが、古典があるから現在の発展がありますよね。
まして推理小説の世界では作中に沢山古典物に関するネタが度々登場してきます。
「それをないがしろにして良いのか?」と心の隅では思っているのですが、先に古典物だけを漁って読むということが自分の中で楽しめないというのも事実です。
なので、なるべく現代物と古典物をバランスよく読むようにはしているつもりです。
肉ばかりではなく魚も野菜も食べる、みたいな。
その割には読むのが遅くなってしまいました。
どうしても古典物はハードルが高い印象があります。
というのも歴史的意義を感じるとしても、それが面白いかどうかはまた別の話だからです。
そしてこれは個人的な感想ですが、古典物を楽しんで読むという事が自分の中ではハードルが高く感じてしまうのです。
では本作に収録されている傑作と言われる8つの短編はどうだったか・・・。
正直に言えば、ほぼ全部面白かった。
むしろ歴史的意義の方がどうでも良くなっていました。
特に面白いと思った物だけ紹介します。
まず『人を呪わば』(ウィルキー・コリンズ)と『安全マッチ』(アントン・チェーホフ)の2作品。
この2作品は結末が似通っていると思うのですが、アプローチは似ていてちょっと違います。
両作品とも賢そうにしている者が賢いとは限らないというユーモアが特に面白いのですが、その「ユーモア」の描き方が違うと思っています。
前者はある意味真面目に、後者はむしろコメディに。
百年以上前にもうこの域に!?という驚きもありました。
こういうユーモアを交えつつ読者を翻弄する切り口は、自分はあまり読んだことが無いので目から鱗が落ちるようで面白かったです。
次に『医師とその妻と時計』(アンナ・キャサリン・グリーン)です。
これは推理小説というよりも・・・という感じではありますが、面白かった。
本作に収録されている作品の中では、特に動機や人間関係等の心理面に特化したと言っても良い作品です。
途中まではトリックが気になりますが、後半はカオスな人間関係にハラハラとしてきます。
そして結末は非常に印象的です。
あまり書けませんが、こういう心理面に特化した作品は心に深く刻まれるくらいのインパクトが残る気がします。
最後に『十三号独房の問題』(ジャック・フットレル)です。
何と作者のフットレルはかの有名なタイタニック号に乗船して、沈没事故に遭遇して亡くなったそうです。
肝心の作品の内容ですが、ある意味くだらない意地の張り合いから論理的思考を辿れば脱獄も不可能ではない、という話の流れから実際に脱獄出来るのかを試験する・・・という内容です。
この作品は映画『es【エス】』を一瞬思い浮かべました。
普通は追い詰められる囚人が逆に看守を追い詰める様子がなかなか面白かった。
推理小説として読むとちょっと物足りない気もしますが、探偵側が犯人役を追い詰める爽快感が面白いように、犯人役が探偵役に挑むのも面白いよね~という逆転の発想をこの作品に観れる気がします。
取り上げるのは以上です。
他にもデュパンが登場する作品やホームズが登場する作品も収録されています。
ホームズの方はいずれ別の記事で取り上げるつもりです。
本作を読んで古典物に対するイメージがちょっと変わりました。
もしかして、古典物って短編集の方が面白いのか?
ホームズもそういう印象ですし。
序盤の江戸川乱歩の各種ベスト表もすごく良かったです。
シリーズ2作目を読むのも楽しみです。
『世界推理短編傑作集1【新版】』
★★★★☆ / (4点)