アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『クリスマス・プレゼント』 / ジェフリー・ディーヴァー

 

この作者の方の情報は何も知らず、ただ冬に読むの丁度良さそうだったのと帯に書いてあった<ドンデン返し16連発>の文句に魅かれて購入しました。

この作者の方は『ボーン・コレクター』シリーズで有名の方のようです。

ちなみに本作にもシリーズの主人公であるライムの登場する物語が収録されております。

それが本書のタイトルでもある「クリスマス・プレゼント」という物語です。

 

さて帯に書いてある文句から分かるように、本作は16の物語で構成されている短編集です。

全てがミステリーとなっており、しかもどの何れ物語も質の高い作品となっています。

正直過度な期待はしていなかったのですが、いやだからなのか、とにかくこの作品メチャクチャ面白かったです。

それも16の物語全てが面白かった。

こんなにワクワクできる短編集は初めてだったかも知れません。

 

あとがきにもありますが、この作品は前半と後半で物語の方向がちょっとだけ異なっている気がします。

でもこの作品集の共通点は作者のまえがきで述べていることにあると思います。

 

善を悪として、悪をさらなる悪として、そして何より痛快なことには、究極の善を究極の悪として描くことさえできる。

 

この作者の台詞の特に後半部分が本作では徹頭徹尾なされていると自分は思います。

それが時には爽快に、時には残酷に、時には幸福に、時には絶望に、まるで万華鏡のように16編それぞれに移り変わっていき、読者は色々な角度から物語を楽しむことができます。

先ほどの話に戻りますが、本作の前半はミステリーとしての趣が、後半は物語の重厚さが特に際立っていると個人的には感じています。

主人公の性別や性格、特徴は全てバラバラで舞台も様々です。

それら16編全部が面白かったと本心から思っている訳ですが、その中でも特にお気に入りだったのは「ウィークエンダー」、「サービス料として」、「ビューティフル」、「この世はすべてひとつの舞台」、「被包含犯罪」、「パインクリークの未亡人」、以上です。

特に面白かったベスト3を更に絞るとすれば「ウィークエンダー」、「サービス料として」、「被包含犯罪」になりますかね。

この3作品って作者のまえがきが良いスパイスになっている気がして、余韻が良いとは言えない話もありますがインパクトが強くて好きですね。

これは個人差があると思いますし、どれを選んでも全く不思議ではありません。

それくらい質の高い短編集でした。

余談ですけど「ビューティフル」については「ジョジョの奇妙な冒険」の第4部に出てくるシンデレラの話を思い出しました。

「被包含犯罪」はゲーム「逆転裁判2」が頭を過りました。

 

ところで作者のまえがきにはもう一つ興味深った台詞があります。

それは長編小説と短編小説に関する作者の視点についてです。

作者曰く、

長い作品を書くのは、短い作品を書くよりはるかに楽な作業だ。

ということです。

これまた作者曰くですが、短編小説の場合は長編小説と異なり多くの感情を投資することなく、また時間をかけて登場人物を好きになったり世界観に没頭するということを楽しむという訳では無いという事です。

短編小説は、たとえるなら、狙撃手の放った銃弾だ。早くてショッキングなものだ。

更には

短編小説は、作家の怠慢をけっして許さない。

とまで述べています。

自分にはこういう視点は全くなかったですし、こういう視点を述べている作家も初めて知ったものだったので、この作品のまえがきはとても面白かったです。

事実、この作品はどの物語も面白かっただけに説得力がありました。

この自分にとっては「発見」とも言える推理小説としての「哲学」のようなものが、今後推理小説を楽しんで読み進めるのに新たな視点をもたらしてくれそうな気がします。

 

 

最後に作品の中身の話に戻りますが、後味爽快な話もあれば恐ろしいほど後味の悪い話もあります。

それら全て総じて面白かったと思える本作を読んで本当に良かった。

帯には

クリスチアナ・ブランド『招かれざる客たちのビュッフェ』と並ぶ史上最強のミステリ短編集

という謳い文句がありますが、本作と比肩されるこちらの作品も興味がわきます。

これだけの宣伝文句を事実として突き付けられては・・・。

クリスマスの時期は過ぎてしまいましたが、個人的にはとても楽しいクリスマスプレゼントだった本作です。

 

 

 

『クリスマス・プレゼント』

★★★★★  /  (5点)