前作『シャム双子の秘密』はナンダカンダ言いつつも、雰囲気は好きだったみたいです。
そんなことに読み終わってから気づきました。
「推理」小説としては微妙でしたが、推理「小説」としてはインパクトが残る作品でした。
そのイメージがあったので、この勢いで国名シリーズを読んでしまおうと今作に手を出しました。
本作は主にプロットを担当していたフレデリック・ダネイが来日した際に自作のベスト一位として挙げている作品でもあるらしいです(角川文庫版あとがきより)。
しかしそれに対する読了後の自分の反応は「本当にこれなの?」です。
事件自体は非常に魅力的です。
密室の殺人現場に残された奇妙な共通点があります。
それは何もかもが「逆向き」にされていること。
家具は壁に扉面を向けて置かれ、被害者の服も後前が逆さになって着用させられている。
一体なぜ・・・?
あまりにも奇妙なこの現場は、その答えを早く知りたいと思えるとても魅力的な謎でした。
本作の魅力はそこに1点集中していると言っても過言ではない気がします。
それ故に、その答えが分かった時の脱力感が何とも言えませんでした。
登場人物一同はエラリーの話しに衝撃を受けていますが、知識の浅い自分にはイマイチぴんと来ず。
エラリーの論理的な思考を辿った説明にはピンと来ませんでしたが、まぁそんな理由だとは思ってました。
クリスティの『ABC殺人事件』と似た考え方ですね。
密室の謎解きですとかは最早自分にとってはどうでも良いレベルだったので(それと読んだだけだとイマイチ理解出来ませんでした)、謎解き説明は割と退屈でした。
それと、これだけ大掛かりな仕掛けをしてますので何となく犯人の目星が分かってしまうような気が・・・。
犯人の意外性は個人的にはありませんでした。
ただ、自分はこの作品で好きな部分が2つあります。
1つは犯人の動機です。
自分はこの動機はリアリティがありますし、伏線もきちんと提示されていてかなり面白かったです。
これまで読んだクイーン作品の中で最も気に入った犯行動機でした。
そしてもう1つはタイトルにもある「チャイナ蜜柑」です。
これは説明してしまうとネタバレになってしまうので詳しく書けないのですが、序盤からエラリーはチャイナ蜜柑のことで大騒ぎをします。
ここはある意味ずるいとは思うのですが、こういう騙される展開とそれを指摘したテンプル嬢は流石です。
この推理小説へのアンチテーゼとも取れるやり方は個人的には気に入っています。
それと角川文庫版のあとがきは非常に面白かったです。
これを読むためだけでも意味のある1冊だったと思っています。
特に密室の謎解きは図解で解説されていて非常に分かり易かったです。
図自体はすげー適当な絵ですけど。
全体的に、これもネタバレになりそうですが、実際エラリーの推理は的外れなことも多くなっていますが、それはやはり部屋全体があべこべにされた密室現場という奇々怪々な謎に挑戦する上で、ある意味必然だったと思います。
それは理解出来るのですが・・・。
やはりそれ故に話が若干冗長に感じてしまいましたし、密室の謎解きで肩透かしを喰らったような気がしてどうも個人的に面白いと思える作品ではなかったような。
そんな印象が拭えません。
余談ですが、この作品を読了して振り返ると『黄色い部屋の謎』と似ている部分がある気がしています。
それはトリック的なことではなく・・・。
これも余談ですが、本作では登場人物の中に切手コレクターが出てきますが、自分の父親が切手をコレクションしていたのを思い出して少し懐かしかったです。
その影響か切手には妙な魅力を感じます(自分はコレクトしてませんが)。
この勢いで次は『スペイン岬の秘密』に挑みたいと思います。
『チャイナ蜜柑の秘密』
★★☆☆☆ / (2点)