自分は探偵役のエラリーが登場する作品において、まだ短編集は読んだことがありません。
なので、自分にとっては本作が初めて探偵役のエラリーが登場する作品で題名に「国名」がついていない作品となります。
あとがきにも出てきますが、『チャイナ蜜柑の秘密』のあとがきで紹介されていたように、作者の自選ベスト3に入っているのが本作『中途の家』でした。
ということで結構期待していました。
「結構」という言葉を使うのは、自選ベスト1位の『チャイナ蜜柑の秘密』がイマイチだったので、過度な期待は禁物であるという戒めのためです。
さて、そんな本作の感想ですが・・・。
個人的には『Xの悲劇』や『Yの悲劇』に匹敵するくらい面白かったです。
いや流石に『X』と『Y』と比べてしまうと劣るかも知れませんが、十二分に面白かったことには違いありません。
自分が一番気に入ったのは、ここまでの「国名シリーズ」に比べると「物語」としての面白さが段違いに素晴らしいこと。
「国名シリーズ」の中では、物語の面白さという事で言えばその物語の構成上『ギリシャ棺』だけは別格という感じがありました。
個人的には『フランス白粉』も悪くないと思っていますが。
それはともかく、とにかくクイーンの作品は物語よりも謎解きの方に比重が置かれている感じがあり、これは自分の好きなクリスティの対岸にある手法だと感じています。
ところが本作ではその比重がとても良いバランスを保って成り立っている感じがするのです。
逆に、もしかすると謎解きの方に関しては物足りない感じがしないでもないですが、個人的には全然問題ありません。
それを上回る「物語としての面白さ」がありますから。
今までよりも登場人物の造形はよく出来ていますし、物語の展開も波があってジェットコースターのように浮き沈みする展開にハラハラドキドキさせられますし、「正義」が実行される場面ではスカッとします。
特に裁判の章は面白かった。
10対2が0対12にひっくり返るって、やるせないですね。
そのやるせなさも含めて、最後の展開に活きてきます。
ロマンスの展開に関しても本作では良い方に作用していると個人的には思いました。
全ての過程が巧く結末に収まる流れになっているので、もう一度読みたいくらいです。
リチャード警視が殆ど出てこないのも新鮮で良かったです。
でもやっぱり、各登場人物が際立つように造形されているのが一番の強みだと個人的には思います。
謎解きに関しては、副題にある「ある推理の問題」となっている通り、被害者の身分からちょっとした問題が起こります。
それを巡ってエラリーの周りで対立が起こる訳ですが、ここではエラリーは何も出来ません。
謎解きもスムーズにいく訳もなく、それでも奔走するエラリーはなかなか格好良かったです。
いつも通り、謎解きに関してはちょっとした事が広がっていて解決に至ります。
「あれが重要なシーンだったの!?」って、いつまで経っても推理小説初心者で、ある意味ありがたい・・・。
全部合わせて、本当に面白かった!
次は『ニッポン樫鳥の謎』あるいは『日本庭園の秘密』となりますが・・・。
電子書籍では簡単に手に入りますが出来れば書籍で欲しい。
中古で探してみようかしら。(足を使って)
その先はいよいよ「ライツヴィル」シリーズが待ち受けていますので、クイーン作品の楽しみはまだまだ続きそうです。
ちなみに本作はお馴染みのJ.J.マック曰く『三都物語』という題名を推していたそうですが、自分は『中途の家』の方が全然良いと思います。
だって、こっちのタイトルの方がワクワクしません?
『中途の家』
★★★★★ / (5点)