エラリー・クイーンが続きますが、国名シリーズの最後ということです。
最後はフーダニット作品でした。
前作の『チャイナ蜜柑の秘密』では殺人現場のあらゆる物が「逆向き」にされるという何とも興味深い事件でした。
今作でもチャイナに続いて興味深い現場となっています。
死体が「全裸」だったということです。
(ちなみに「あとがき解説」によれば映画だと水着だけは着用してるらしい。)
一体何故裸なのか?
そして犯人は誰なのか?
この二つが本作の大きな謎になっています。
この二つの謎に関しては「何となくこんな感じじゃないの~?」と思っていたことが大体当たってしまいましたが、その根拠を説明してくれるエラリーの説明には大体納得出来ました。
下着は奪う必要なかったような気もします。
まぁトリックに関しては、自分はこの作品の大まかな味付けに過ぎないと思っています。
説明すると状況は奇妙で興味深いですし、エラリーの推理もこの「死体が裸」という点で行き止まりになってしまいます。
ただ読了してしまうと、どうも印象が薄いのです。
この辺はチャイナと同じ感想ですね。
国名シリーズの後半の作品はトリック的にはイマイチな物もありましたが、キチンと小説としての物語は完成していて、そこは凄く好きでした。
今作では動機は殆ど問題になりません。
エラリーがあっという間に突き止めてしまいます。
その過程には問題があるような気もしますが、これも「探偵の性」というものでしょう。
我らが江戸川コナン氏一向も「禁じられると入ってみたくなるのが探偵の性」と言っていました。
それはともかく、人物描写や物語の質としては自分は満足出来る内容だったと思います。
モーリー警視はサム警視を彷彿させる、怒りっぽい刑事でしたが、この手の刑事で有能な人を未だ見たことがありません。
サム警視も最初は「これで警視なの?」と思っていたものです。
リチャード警視もそうですが、皆目の前事実にただ飛び付くばかりで、思考が停止してしまうのである意味読者と同じレベルに感じてしまいます。
(たまにエラリーのミスリードもあるので難しいですが)
警察には警察の事情があるので苦しいのも分かります。
ブルーノ地方検事もそんな苦悩を述べていた気がします。
それゆえに、警察側としては事実がある程度積み上がってしまえばとりあえず告発するという流れになってしまうのかも知れません。
(これについても『Xの悲劇』でレーンが非常に鋭く指摘していたシーンが印象的です。)
だからこそ探偵役が引き立つというのは大いにあると思いますが。
そしてそういう人達が探偵に頼りながらも、探偵役を信用しきらないというのも面白い。
何だかで、本作に限らず「見下されてこその探偵」だよななんて自分は思ったりする時があります。
まぁこれには探偵役に癖が強すぎる人が多いというのも大きく関係してるとは思いますし、ペラペラ喋る探偵もこれまた居ないということもあると思います。
モーリー警視はともかく、サム警視やリチャード警視の印象は読み進める毎に少しずつだけ変わった気がします。
そんな印象が変わった警察側の人たちですが、本作で印象が変わったのは実はエラリー自身です。
エラリーが犯人を告発する前に逡巡する場面があるのですが、これは興味深いエラリーの変化です。
これは今日に至るまで付きまとう探偵役の苦悩とも言える場面だと思いますが、今までこういった事で悩むエラリーは見たことがありません。
自分はこのポイントこそが本作で最も興味深い点だと思っています。
この後もエラリーの登場作品は続いていきますが、本作は今後に向けての大きな分岐点になるのではないかと予想しています。
国名シリーズもこれで終わりかと思うと名残惜しいですね。
国名シリーズのまとめをまた別の記事でやりたいと考えています。
それで思いましたが、本作のあとがき解説もかなり面白かったです。
角川文庫版は解説が面白いですね。
創元推理文庫版で読んだ物もあとがきだけ読みたいなぁ。
本作の感想をまとめると、悪くないけどもう一つ捻りが欲しかったかなと。
あとキッドが強すぎて絶望的な描写はなかなかグッドでした。
フーダニットがメインとは思いますが、そんなことより人物相関図や明かされる動機の部分をどれだけ推理出来るか、楽しめるかというのが自分なりの楽しみかたの正解な気がしています。
国名シリーズはこれにて終了ですが、エラリーの作品はこれからも読んでいきたいと思います。
(そういえばエラリーの愛車のデューセンバーグって燃えたんじゃないの?)
★★★☆☆ / (3点)