『何者』の続編・・・というよりは番外編とでも言った方が良いでしょうか。
『何者』とは違い、本作は短編集、アンソロジーになっています。
『何者』に登場した人物、もしくは関連した人物たちの『何者』の前後に当たる物語が描かれています。
・「水曜日の南階段はきれい」
『何者』の登場した光太郎が主役の物語です。
結局こういう話が好きな自分です。
本作に収録されている物語の中で最も好きです。
『少女は卒業しない』の「メトロノームをもう一度」に似てる話ですね。
『何者』の終盤で明らかになった、光太郎が好意を寄せる人が登場します。
・「それでは二人組を作ってください」
この章のタイトルがグサリと来ます。
自分もこの手のグループ作りは苦手な方だったので。
とは言え、この章の主人公である理香とはちょっと異なる理由ですが。
この章の理香の締めの台詞がちょっとだけ切ない。
『何者』の終盤で理香が吐露した思いを考えると、彼女なりに成長してる様子が見て取れる気がします。
・「逆算」
最後のオチ以外特に印象に残りませんでした。
でも、話としては面白かったです。
・「きみだけの絶対」
朝井リョウなりに伝えたいメッセージがあったはずですが、残念ながら自分がそれを受け取ることは出来ませんでした。
むしろ『何者』を読んで少し濃くなった烏丸ギンジというキャラクターが、この話を読んで薄まった気がします。
・「むしゃくしゃしてやった、と言ってみたかった」
うーん・・・この話も特に印象に残らず。
ただ、真面目に、清く正しく生きるだけではチャンスは手繰り寄せられない、という側面は、ある意味『何者』にも通じる部分があったように思います。
・「何様」
恐らくこの話がリード作品になるのでしょう。
朝井リョウらしいというか、『何者』の時と同じく最後に視点がひっくり返るような展開になります。
「その一秒だって誠実のうちだと思うよ。」
『何者』から続いたここまでの話が、この一言、この格言によって補完された気がします。
これはミステリーの楽しみ方にも通じることだと思うのですが、先入観が破壊される瞬間というのは良くも悪くも印象に残りますね。
勿論、本作の場合は良い方に、それも感動するほどに。
そして朝井リョウのトドメの刺し方は、いつだってクリティカルに、心の深い部分まで刺さりますね。
ちなみに本作の解説はオードリーの若林氏が書いています。
が、その解説は自分の心には刺さりませんでした。
ただ「私の中の~」という件は共感しました。
全体的な本作の印象は薄い感じは否めないのですが、間違いなく刺さる部分もありました。
必読、とまでは行かないまでも、『何者』を読んだ人は本作を読むことで補完される所もあるのではないでしょうか。