国名シリーズの中でも名作と聞いていた本作ですが、事前に聞いた評判通り名作だと思いました。
夢中になれるワクワク感とアッと驚くような意外な展開が味わいたくて推理小説を読んでいますが、なかなか夢中にさせてくれるような作品には出会えません。
そういう意味では、久々に夢中になって読むことが出来た作品だったかも知れません。
推理小説と言えども根幹は小説ですから、やっぱり物語としてつまらない作品はどんなにトリックが素晴らしくてもつまらないと考えています。
では本作の「物語としての面白さ」はどうか。
文句なしに面白いです。
これまでのエラリーは自信家で、大きな間違いをしでかさずに解決まで導く名探偵役でした。
ところが本作では、エラリーがまだ大学を卒業して間もない頃の所謂駆け出しの頃のお話ですから、エラリーの天狗の鼻が折られる場面が出てきます。
こんな展開今までにはなかったので、新鮮でした。
周りはエラリーの真価をまだ認めてませんので、一度失敗したエラリーの話にはなかなか肯定しません。
そのせいで、今度はリチャードが失敗します。
(というか、リチャードがちゃんと活躍したのは『ローマ帽子の謎』の時だけのような・・・)
ここまでの展開も十分面白いのですが、個人的にはこの後がとても面白かったです。
エラリーが一度浴びた汚名を返上するべく行動していくんですが、ここからが名探偵の真価が発揮される場面です。
また設定も王道ですが、だからこそ面白い。
消えた遺言と謎の死体、解決したと思った事件に新たな展開、そこから引き出される真実とは・・・。
王道的な設定とエラリーが駆け出しの頃という設定が見事に組み合わさっていると思います。
物語としての面白さは十分だと言いましたが、「推理」小説ですから物語としての面白さだけだと物足りません。
やはりアッと驚くような展開やトリックが用意されていなければ。
この点でも本作は文句なしです。
ネタバレなので書きませんが、個人的には意外過ぎる結末でした。
正直国名シリーズ特有の論理的な解決方法としては、自分は今回はあまりグッと来ませんでしたが、犯人当ておよび手口当ては十分推理出来る範囲ですので、挑戦するのも面白いかも知れません。
自分には意外過ぎて全く分かりませんでした。
一つだけ納得いかないことがあるとすれば、最後の最後の展開は要らなかったかなと。
この展開になることが納得出来るだけの描写が足りなすぎる気がします。
まぁ本筋とは関係ないので良いんですが。
本筋と関係ないと言えば、今回はリチャードが「驚き桃の木だ」と言っていましたが、やっぱり違和感が。
この新訳を担当した方のこだわりなんでしょうか。
総合して評価すれば、傑作と言って差し支えない作品だったと思います。
何回も展開する内容とエラリーの失敗、エラリーの周りの人たちの失敗、そこからのエラリーの挽回、そして意外過ぎる結末・・・。
物語の面白さと推理小説としての醍醐味の両方が見事に結集した渾身の一冊でした。
これだから推理小説を読むのが止められない。
改めてそう思わせてくれた、素晴らしい一冊でした。
『ギリシャ棺の謎』
★★★★★ / (5点)