『Yの悲劇』の新訳版が来週発売になりますが、こちらの『屍人荘の殺人』の続編である『魔眼の匣の殺人』は本日文庫版で発売されるということで、本作も再読しようという運びとなりました。
自分は新書は買いませんので、文庫版が出るのを待っていた作品の一つとなります。
ここからは若干ネタバレもさり気なく入ります。
さて、前回『屍人荘の殺人』を読んだのは本作が映画化される少し前のタイミングでした。
最初に本作を知ったのは映画の予告編で「なんか面白そう!」となり、映画を観る前に原作を読んだという訳です。
実は最初に本作を読んでいたタイミングで人生初のインフルエンザにかかり、救急車で運ばれた記憶があったので、本の内容と関係なく自分にとって忘れられない一冊でした。
前回本作を読んだ時にはミステリーの賞を総なめにしている大作という情報だけは持っていたのですが、まさか中身がここまでとんでもない物だとは全く思っていませんでした。
なので読み始めてすぐに「なんだこの展開!?」とビックリ仰天しました。
あと最初に読んだ時の感想で覚えているのは
・ライトノベルみたい
・賞を総なめにするほどには面白くない
・明智さんかわいそう
ということくらいでした。
率直に言ってしまえば、「それほど面白いと思えない」ということです。
ところが今回再読して感想が逆転しました。
まず再読して思ったのは、意外と複雑なトリックと時系列になっていること。
探偵役の剣崎とワトソン役の葉村が推理を述べていく場面が何度か出てきますが、この推理合戦のやり取りが結構複雑な構成になっていて、何度か頭を悩ませてしまいました。
映画版も読了後に観直していますが、映画版ではもっとシンプルな構成になっていました。
前回読んだ時の「ライトノベルみたい」という感想から初心者向けの分かり易い作品と思い込んでいましたが、思っていた以上に本格的な作りになっていました。
これにはゾンビと人間の組み合わせという奇妙な舞台が事件をより複雑化していることも大いにあると思います。
改めて、この発想は凄いですよね。
その大枠の舞台設定だけでも驚愕なのに、中身は本格推理小説にきちんとなっているっていうのが凄いと言われている理由なのかなぁと考えています。
キャラは確かにライトノベルっぽい感じがするんですが、原作ではゾンビに対する恐怖もきっちり描かれていて、サスペンスとしても成り立っていますよね。
それと、再読して自分が気に入ったのは被害者側にもドラマがあったということ。
実は主人公も・・・という部分も含めて、極限状態で浮き彫りになる人物像がお見事だなぁと。
まぁこの手の手法は沈没しかける船、孤島に取り残された集団等でやりつくされた感はありますが、ここまで色々な要素が絡み合う展開はあまり無いのかも知れません。
ただ一つ気になるのは、個人的に探偵役の剣崎があまり魅力的に映らないこと。
ただ、この辺は続編で印象が変わるかも知れないと期待しています。
主人公でありワトソン役の葉村が今後どういう活躍をするのかという点も楽しみです。
再読の2回目でここまで感想が逆転するとは思っていなかったので、再読して良かったです。
最初に読んだ時は「賞を総なめ」とかの文句に何処か斜に構えていた所があったせいかも知れません。
とここまでは原作の話でしたが、ついでに映画版の事も触れておきます。
自分が最初に映画を観た時の感想は「原作よりも分かり易い」ということでした。
これは再度観直しても同じ感想でした。
あと映画版はコメディ要素が強く、サスペンス感はかなり薄れてます。
この部分は賛否両論ありそうですが、自分は肯定的です。
ただ登場人物たちの立ち位置や人間関係が変わっていたのは、ちょっと頂けないですね。
被害者側のドラマが無かったのは映画では無かったというのは良かったと思ってますけどね。
映画版で一番良かったと思ったのは明智に活躍の場が用意されていたこと。
主役3人のキャストはなかなか良かったですし、剣崎が葉村の後輩というのもかなりしっくり来ました。(原作もそうすれば良かったのに)
ただ葉村が経済学部から理学部に変更になっていた事には何の意味があったのか。
意味不明な改変でした。
あと、立浪が大音量でハードロックを流すというのは原作にもあったシーンですが、それに対する苦情が来ているとの言うのを聞いて「どこがフェス研だよ」と返すのが正論過ぎて、そもそもの設定が破綻しているのも面白かったです。
映画版の評価はザっと見た限りでは低そうですが、自分は結構好きです。
という訳で、本日発売になる続編も楽しみにしています。
『屍人荘の殺人』
★★★(★)☆ / (3.5点)