アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『不死蝶』 / 横溝正史

 

4月以来の金田一耕助シリーズになりますかね。

本当はもっと早く読みたかったんですけど、『不死蝶』がなかなか書店で見つからなかったんですよね。

以前は横溝正史の復刊シリーズで書店に並んでいたのは覚えていたんですが、いつの間にか多くの書店から消えていたようです。

ネットで調べれば早いんですが、足を使って探すのも楽しいので色々探してみたのですが・・・。

結局探すのに3ヶ月かかりました。

余談ですが、自分が昨年読みたくて探しては見たものの結局見つからずに電子書籍で読んだ『死仮面』が逆に店頭に並んでました。

タイミング悪かったな~。

 

さて、『不死蝶』です。

本作では「不死鳥」、そして「人面瘡」の2編が収録されています。

まずは「不死蝶」。

言ってしまえばいつも通りの金田一耕介シリーズです。

昔ながらの田舎村に、犬猿の仲の2つの名家、そこに現れる金持ちの美女、そして23年前にあった殺人事件・・・。

これでもかとばかりに「金田一要素」が散りばめられています。

故に真新しさ・新鮮さは殆どありませんが、安定して面白い作品となっていました。

 

今回は『八つ墓村』を彷彿させる、実際本作の中でも『八つ墓村』の話が少し出てきますが、鍾乳洞内で事件が起こります。

この鍾乳洞の作りがイマイチ頭の中で想像できず、別参照のマップがあれば面白かったとも思わなくもないですが、この未知なる領域が残されている鍾乳洞という設定が本作の醍醐味にもなっているのかも知れません。

実際話の大部分がこの鍾乳洞に絡んだものになっています。

 

短い話の割には登場人物が多いような気がしますが、自分はそれこそが「不死蝶」の面白さを際立てているような気がしています。

争う2つの名家という昔の日本らしいコミュニティという設定も、使い古されているかも知れませんが面白い。

これらの設定がちゃんと飽きずに生き生きとしてくるんだから、やっぱり横溝正史って凄いよな~。

この事件の着地点は自分はすごく好きです。

名探偵が最後に堪え切れず告げる台詞が特に良い。

明智小五郎の方がスマートですが、金田一耕助の方が日本らしい名探偵になっている気がします。

 

この事件の真相は意外と分かり易いかも知れません。

ただ自分は全く、一つも分かっていませんでした。

「言われてみれば確かに!」ですとか「そういうことだったのか!」とか驚きの連続でした。

一つ推理していたことがあったんですが、全く当たっていませんでした。

(ちなみに神父に関することです)

 

 

もう一作の「人面瘡」ですが、こちらはもう何度目かの夢遊病者の話です。

とある女性が自分が無意識のうちに妹を殺害してしまったかも知れない・・・というのが事件の発端で、磯川警部が登場します。

こちらの事件は逆に着地点に少し不満があります。

こんな男情けなくないか?と思ってしまいます。

女性側もそれで良いのかな・・・。

とは言え時代的な風土や考え方もあるでしょうし、そこは個人の思考の問題かも知れません。

特に女性側の考え方に関しては当時の考え方からしたらハッピーエンドなんでしょうね。

そして、殺人事件の解決自体はちょっと意外かも知れません。

この解決にも自分は不満です。

殺害まではまぁ良しとしましょう。

その後の遺体処理の流れはちょっと無理じゃないか?

とは言え、本作ではミステリー的な側面よりも人間模様の物語的側面のが強い気がしますので、推理小説的な楽しみ方は飽くまでサブなものになっていると思います。

 

という訳で、小粒ながらも十分面白いと個人的には感じた一冊でした。

表紙は不気味ですが、内容はそれほど不気味なものではありません。

金田一耕助初心者でも楽しめる一冊だとは思いますが、書店では既に手に入りにくい模様ですのでご注意を。

 

 

『不死蝶』

★★★(★)☆ /  (3.5点)