アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

白夜行 / 東野圭吾

 

まず、どうしても多少のネタバレを含む感想になってしまいます。

と言っても、それはもう殆どの人が知っている事実だとは思いますので、ネタバレは気にせず読んで大丈夫かと思います。

 

2021年の一発目に読んだ作品は『異邦の騎士』(島田荘司 著)でした。

そして、その『異邦の騎士』を読了した直後に「2022年の一発目はこれにしよう」と決めていました。

理由は漠然としているんですが、まず冬のイメージがあったこと、そして恐らく重厚な物語が展開されるであろうことから、連休中に腰を据えて読みたいと思ったこと、この2つが選んだ理由です。

元々、東野圭吾作品はあまり読んだことはなかったんですが、自分がどうしても読みたいと思っていたのが『ある閉ざされた雪の山荘で』、『仮面山荘殺人事件』、『ナミヤ雑貨店の奇跡』、そして『白夜行』でした。

白夜行』以外は2020年に読んでしまっていたのですが、『白夜行』を読むタイミングを見失っていたので、年始一発目は丁度いいと勝手に一人で納得していました。

 

白夜行』と言えばドラマ化もされていましたが、自分は観たことが殆どありませんでした。

ただ、ドラマ第一話の冒頭のシーンだったと思うんですが、そのシーンが何故か強く印象に残っていました。

それはサンタの格好をして倒れている山田孝之さんと立ったままの綾瀬はるかさんが重々しい雰囲気の中で見つめ合っているシーンでした。

その後、自分の記憶では見捨てるように綾瀬はるかさんが立ち去っていたシーンが再生されるのですが、それは自分のイメージによる記憶補正かも知れません。

とにかくそのたった1~2分のシーンが自分には重厚かつ濃密で、この二人が歩んできた人生の壮絶さを物語っているような、とてもとても強い印象を与えてくれました。

 

そのイメージが忘れられないまま15年以上の月日が経ち、いよいよ読むことが出来た作品でした。

単刀直入に言えば、傑作だと思いました。

自分が期待した時はなかなか飛び越えてくれないハードルを軽々と飛び越えてくれました。

魍魎の匣』以来の満足感が自分を読後も長く恍惚感に導いてくれた作品です。

 

この作品は、元は連続短編小説だったものを長編小説に構成し直して作成されたとのことです。

短編集の流れからか、章ごとに出てくる登場人物や年代が異なります。

主人公は雪穂と桐原の二人になりますが、この二人が対面するシーンがある作中であるのは最後の最後だけとなっています。

自分はドラマの強いイメージが先行していたため、この二人が結びついていることは知らず知らずの内に分かっていました。

ただこれ、何のイメージも持たずに原作をもし読めたとしたら、きっともっと面白かっただろうなと思っています。

「もしかして・・・」「きっとそうだ」「やっぱり!」の流れになったこと間違いなしだったでしょう。

ただ、ドラマの冒頭シーンのイメージが自分にもたらした物も悪い事ばかりではないと自分は考えているので、そこはあまり残念とは思っていません。

 

この二人が会話するシーンは最後まで出てきません。

会話どころか二人が揃うシーンすら最後まで出てきません。

雪穂と桐原の会話も、感情も、二人の絆も、行動も、すべて推測と想像でしか補完出来ません。

その推測と想像の世界がもたらす無限の世界が、この作品の最大の魅力だと思っています。

重厚な物語と絶妙な人間関係が推測と想像の材料となっています。

もし二人の内面を描いてるシーンがあったら、二人の会話シーンがあったら、二人の絆を色濃く彩るシーンがあったら、ここまでの重厚さは担保できなかったかも知れません。

 

この二人は自分の予想通り壮絶な人生を歩んできたわけですが、二人のやったことを考えれば素直に同情出来る訳はありません。

それでもなぜか、この二人の関係性には心をえぐられる様な何とも言い難い強い魅力があるように感じています。

この関係性を表現しないことで表現しきった東野圭吾氏には「ありがとう」と素直に言いたい気分です。

 

その中でも特に自分が印象的なシーンが桐原がとあるシーンで言う「気ぃ付けて帰れよ」という台詞が出てくる場面です。

この直前にタイトルの元となっているような台詞を桐原が言うシーンも挟まれますが、この章を読むと、色々な感情が自分の中から出てきます。

この場面でも自分には雪穂のことが頭から離れませんでした。

これが、この作品を残酷でやり切れないという負の感情だけでなく、どこか美しさを感じてしまう東野圭吾マジックの効果なのかも知れません。

 

いつもは読後に評価やレビューを読むんですが、今回は読みませんでした。

その代わりに解説してるページがあったので、それを読んだら色々と自分の見落としていた事実が再発見出来ました。

 

(自分が読んだ解説サイトはコチラ) 

tamaazarashi.com

 

特に性描写の件は自分も気づいていませんでした。

なるほど、そういう仕掛けもあったのかと驚きました。

ただ、この解説が全て正しいとは自分は思っていません。

飽くまで「考察」ですので、自分の想像や考察とは違う部分もあります。

ただ全体的にはとても面白く読めました。

 

話を作品に戻しますが、久々に傑作だと思える作品に出合えて本当に良かったです。

そして、これを年始一発目にして本当に良かったです。

この興奮が冷めやらぬ内に、冒頭シーンだけでこの作品のイメージを作り上げたドラマ版もこれから観てみようと思っています。

 

 

一発目から最高の作品でした。

感想も難しい、本当に色々な感情や考えが芽生える沼のような作品でしたが、暫くは作品を通して自分の中に潜りたいと思います。

 

 

白夜行

★★★★★ / (満点)