アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』 / 東野圭吾

 

推理小説ではありません。

でもミステリーとして紹介されているときもあるのよね・・・。

 

それはさておき、本作は昨年末に読んだ作品です。

2023年を締めくくるのに、最後は心温まるような作品が良いと思って本作を選びました。

 

この作品に関しては先に映画を観ておりました。

 

こちらの映画が自分は好きで、何回か鑑賞しているのですが、原作は読んだことがありませんでした。

原作を読んでみると、映画と骨組みは同じなんですが肉付けが異なっていました。

現在と過去、あるいは過去からすれば現在と未来がお悩み相談を通じて繋がるというお話ですが、大まかに言えば幾つかのお悩み相談が映画版だとアレンジされています。

ただ

そのアレンジ自体は原作の良さを損なうものではなく、繋がりも良かったと個人的には思っています。

映画版は西田敏行さんの演技は言わずもながら、他のキャストの演技もなかなか良かったです。

アイドルが俳優、というだけで偏見を持ってはいけませんね。

ということで原作と映画を比較してみると尚更面白いかも知れません。

映画版の着地も好きでしたが、原作はもっと良かったです。

映画版はハートフルな終わり方になっていますが、原作はそうとは言い切れません。

でも、ナミヤさんのお悩みに対する回答が素晴らしいものになっていて、作品が輪になって閉じる感じがあって素晴らしいと思いました。

 

あと原作の方に関して言えば、一見感動的な締め方になっていても、自分はかなり懐疑的になってしまう話もありました。

これは東野圭吾が狙ってそうしているのか、自分が勝手にそう感じただけなのか気になるところです。

 

本作で2023年を締めることが出来て良かったです。

良い作品でした。

でもこれ、もう一か月以上も前に読んだ作品なんだよね。

時間の流れが速いなぁ。

 

 

『ナミヤ雑貨店の奇蹟』

★★★★☆ /  (4点)

『ボーン・コレクター』 / ジェフリー・ディーヴァー

 

 

 

読了してから一か月以上経過してしまいましたので、もう「読んだという記録」を残すためだけの記事になってしまいそうです。

なのでいつも薄っぺらい感想も、今回は輪をかけて薄っぺらいものになると思いますがご容赦ください。

 

 

さて、まずはこちらを・・・。

 

wakuwaku-mystery.hatenablog.com

 

自分が2023年中に読んだ作品の中で断トツで一番面白かったのが『クリスマス・プレゼント』でした。

この作品を読んだのは一年程前になりますが、その時から<リンカーン・ライム シリーズ>は読まなくてはと思っていました。

ちなみに『クリスマス・プレゼント』にもリンカーン・ライム達が登場する話が1話だけ挿入されています。

 

さて、『ボーン・コレクター』です。

99年に映画化もされている本作ですが、自分は作品名は知っていたものの作品自体は観た事がありません。

いずれ観たい気はするのですが、映画の評判はどうなのか気になるところです。

 

ということで中身は全く知らない状態でしたが、『クリスマス・プレゼント』でライム達の様子を読んでいたため、ライムとアメリアの邂逅は結構驚きでした。

こういう感じで、しかもこういう関係だったんですね。

「思考機械」の異名を持つドゥーゼン教授と被るところもあるリンカーン・ライムですが、ライムも負けず劣らずの「思考機械」ぶりを発揮します。

事件自体が「ライムのために起きた事件」と言っても過言ではないほどの、犯人vs安楽椅子探偵という図式で、「これライムじゃなきゃ気づかないで終わってるだろ・・・」と思うことの連続です。

ライムは首、頭部、左手の薬指以外は動かせない身体なので、現場百篇で培ったライムのノウハウを実際に演じるのがアメリアになります。

が、最初の現場がいきなりハードさで、アメリアは拒絶反応を見せます。

自分は『クリスマス・プレゼント』を先に読んでいたので勝手に思い込んでいましたが、正義感だけではどうにもならないことが当然立ちはだかる訳ですね。

この場面はライムの言い分も分かるし、アメリアの気持ちも分かるしで、でも読者としてはライム寄りの気持ちで読んでいました。

 

結局最初の現場はライムの言う通りに現場検証を行うアメリアですが・・・。

ボーン・コレクター』自体は科学・化学・物理学・生物学等、とにかく理系の知識と少しの文系の知識がふんだんに盛り込まれた作品で、自分みたいな理系の知識が乏しい人間にはさっぱり分からないことばかりです。

なんですが、そういった細かい理屈で成り立った事件の上に、しっかりと人間ドラマが乗っかってくるのが面白いところです。

理屈では説明しきれない人間同士のぶつかり合いが物語を最後まで盛り立てている気がします。

それは犯人の不気味さも含めてです。

警察という組織ならではの人間ドラマも描かれています。

上巻で一旦区切ろうと思ったら、上巻がメチャクチャ良い所で終わるので間髪入れず下巻に入ってしまいました。

 

<生と死><正義と悪><動と静>

こういった対比の中で行ったり来たりで揺らいでいる状態を上手に描いた作品だったな、という印象です。

そして、答えが出きらないというところに本作のリアリティを感じました。

これは次作以降も期待して読みたくなります。

 

色んな意味で面白い作品でした。

 

 

 

ボーン・コレクター

★★★★☆  /  (4点)

ドラマ『不死蝶』(金田一耕助シリーズ)(1978年版・1988年版)

 

※こちらは1978年版になります。

 

昨年末に『吸血蛾』の記事に「金田一耕助シリーズの映像版でも観てみようかしら」と書いたところ、はぐれ (id:haguture)さんからコメントでオススメを教えて頂きました。

そのコメントを元に市川崑監督作品の『犬神家の一族』と、それから記憶を手繰り寄せたいと思っていた事から『不死蝶』の映画版及びドラマ版を鑑賞しました。

犬神家の一族』の話はまた次に記事にするつもりです。

今回は『不死蝶』の1978年ドラマ版と1988年ドラマ版について書いていきます。

 

ちなみに自分はU-NEXTで鑑賞しましたが、今確認したら1988年版の方は視聴できなくなってますね。

アマゾンでも88年版は見当たらず、どこで観れるのか自分も分かりません!

自分はタイミングが良かったのかも。

 

さて、そもそも自分が最初に観たのは88年版の方でした。

88年版で初めてちゃんと金田一耕助の映像作品を観て、普通に面白かったので色々調べていたら78年版が見つかり・・・。

しかも、78年版も88年版も古谷一行が主演を務めており、「こういう事もあるんだ!」と結構驚きでした。

古谷一行主演という事は共通していますが、その他の出演者や脚本・演出は異なっております。

当たり前ですが・・・。

 

ということで、ここは自分が観た順に88年版の方から。

先にも述べましたが、この88年版が結構面白かったんですよね。

原作から削られているシーンはありましたが、さほど気にもならず、演出も結構好きでした。

昭和ならではの恋愛事情などは、原作よりも分かり易くて感情移入しやすかったです。

ただこれ、映像版だとトリックに気が付きやすいような気はします。

それは78年版も同じですが。

ただそんな細かい点を除けば、これは今観ても十分面白いと感じました。

踊る金田一・・・なんて原作にはありましたっけ?

そういう原作にはない(と思う・・・)金田一自身の恋愛事情も新鮮で良かったですね。

 

対して78年です。

こちらの方が原作に忠実に作られていたと思います。

あと竹下景子が本当に美人。

平成初期くらいまではテレビに出てる若手女優さんって大人びた人が多かったような気がしますが、最近はそうでもない気がします。

という個人のどうでもいい見解は置いておいて、88年版は2時間と少しのスペシャルドラマだったのに対し、78年版は全3話の構成となっています。

その分もあって、原作より忠実な部分もあればオリジナルな演出が施されている部分もあります。

それで正直に言ってしまいますと、自分は78年版はあまり好きではありませんでした。

というか立て続けに観たせいで飽きてしまったというのが本音です。

それを抜きにしても、演出が88年版の方が好きでした。

88年版の方が尺も短いので展開も早く、飽きずに観られたという事もあったかも知れません。

ただ繰り返しますが、より原作を再現してるのは78年版の方だと思います。

78年版・88年版を観て改めて思った事ですが、こんな事言ったら元も子も無いですが昭和が舞台の作品はやっぱり昭和の時代に撮影したものの方がより味が出ていて良い気がします。

令和の時代に「金田一耕助、再びドラマ化」とか言われてもしっくり来ないんですよね・・・まぁ観てないんですけどね。

ただ単に自分が昭和好きなだけかも知れませんが。

 

 

 

ということで、初めての映像版:金田一耕助の話でした。

今後も原作も読みつつ、映像版も観て記事に出来ればと思います。

まずは既に鑑賞済みの映画版『犬神家の一族』の記事を次は書きたいと思います。

 

 

余談ですけど、映画版の『八つ墓村』が現在無料公開されております。


www.youtube.com

渥美清主演の金田一耕助のようですね。(麦わら帽子なんだ)

自分は渥美清の出演作品って寅さんしか観た事ないんですよね。

そのかわり寅さんは殆ど観てると思います。

無料公開期間中にこちらの『八つ墓村』も観てみようかしら。

 

映画『ある閉ざされた雪の山荘で』


www.youtube.com

 

書くネタはあるのですが、更新停滞気味です。

ちょっとバタバタしているのもありますが、色々あってなかなか起こす気になりませんでした。

その内また読んだ本のネタも書きます。

 

ということで気分転換に新年最初に観た映画のネタを・・・。

イオンシネマの無料鑑賞券の期日が迫っていたので、『ゴールデンカムイ』と迷いましたが、こちらの方が先に上映終了するだろうと思い、こっちにしました。

 

原作は3年前くらいに読みました。

正直自分はトリックが半ば分かってしまった事もあり、あまり好きな作品ではありませんでした。

そんな感想もありつつ、予告編を観ても全く期待出来ないというのが個人的な所感でした。

でもまぁ折角読んだ本が映画化するってことだし、気にはなるよなー・・・ということで観てきました。

 

期待値が低かったからなのか、思っていたより良かったです。

原作の内容も忘れつつありますが、割と忠実だったような。

個人的に期待値が低かったのは、自分の勝手なイメージが出演者と合わないということだったのですが、観始めたら気になりませんでした。

むしろ一人を除いて、良かったくらい(その一人が誰かは伏せておきます)。

原作だと見抜けたトリックも、映画が初見だったらきっと気づかなかったと思います。

原作でどうだったか覚えていませんが、探偵役が凄すぎる。

 

ただ期待していたよりは良かったというだけで、面白かったかどうかで言うとかなり微妙です。

先にも述べましたが、元々原作も好きでは無かったので、相当脚本が改変されていない限り絶賛は無いだろうと思っていましたが、思いのほか忠実でした。

ただサスペンス感は原作の断然感じたかな。

この辺りの改変問題は昨今よく取り上げられていますが、一読者側からすれば原作に忠実にあって欲しい気持ちと、映像化は別物でしょという気持ちの両方が自分は分かる気がします。

その上で、やっぱり好きな原作が大きく改変されていたら至極残念だろうなという考えに至りますね。

自分が思う小説の楽しみ方はやはり自分の想像力で好きなように世界を創造出来るということが大きいので、その世界を破壊されるような、それも嫌な方向にということになれば、それは発狂しかねないだろうなと。

そういう意味では、『ある閉ざされた雪の山荘で』は人物造形はもはや覚えていませんが、ストーリーの構成は原作に忠実だったような。

でもそれを裏切って欲しい自分的には、元々低かった期待値は超えたけど、でもまぁこんなもんだよね、くらいの感想になってしまいます。

あと原作者と読者だと立場も考え方も違いますし、読者側は好き勝手言えるというのは理解しております。

それにしても納得いかない改変があるのも事実ですからね。

 

 

 

という話も中身も行ったり来たりの矛盾も含んだような感想になってしまいましたが、まぁ観て損はしなかったかなと。

でも、もう二度と観ないだろうな。

そんな感じです。

個人的には『仮面山荘殺人事件』の映像化は是非観てみたい気がする。

ただし、こちらの方が演技力や脚本もそれなりのものが求められる気がしますが・・・。

 

ちなみに映画を観てて一番テンションが上がったのは、見慣れた赤い背表紙のクリスティ作品が出てくる場面。

あの赤い背表紙を見ると、反射的に反応してしまいますね。

 

 

 

『ユージニア』 / 恩田陸

 

またもや読了順とは異なりますが、記憶が鮮明のうちにこちらの作品を。

書店で平積みされているのが目に留まって買った一冊です。

恩田陸のミステリー作品を読むのは初めてだと思います。

子供の頃放映していた少年ドラマシリーズ六番目の小夜子』は大好きでしたけどね。

 

 

巻末にはっきり書かれていますが、舞台は金沢です。

作中ではK市と表記されていますが。

自分がこの作品を買ったのは昨年末頃でしたので、その時にはまさかこんな事が起こるなんて予想だにしておりませんでした・・・。

 

さて、本作はK市で起こった第2の帝銀事件とも呼ばれる一家大量毒殺事件を軸に話が進んで行きます。

インタビュー形式で会話が進んで行き、インタビュアーが誰なのかははっきりと分かりませんが、各章の語り部はインタビューを受けている毒殺事件に関連した人物たちです。

偶然ですが、今読んでいる本も同じような造りで驚きました。

様々な人たちの独白から次第に内容が浮き彫りになってくる感じは東野圭吾白夜行』にも似通っているように思います。

そして、何が事実で何が虚構なのか・・・そして何が真実なのかがはっきりしないので、読み手側の想像力を搔き立てられる感じも『白夜行』に似ている気がします。

 

作中で毒殺事件の事をインタビューし一冊の本にした満喜子という人物が出てきます。

その満喜子が終盤で「正しい鑑賞者になりたかった」というような事を述べます。

その満喜子の願望が自分にはよく分かる気がします。

しかしながら、皮肉なことに本作の中で起きた大量毒殺事件を起点とした様々な出来事を正しく鑑賞することは最早不可能なように思われます。

本作を正しく鑑賞しようとすればするほど迷路のような精神世界に取り込まれる様な感覚になります。

そういう意味では、本作は夢野久作ドグラ・マグラ』にも通ずるものがある気がしています。

 

色々と解説を読んでも、絶対に辻褄が合わない事実が出てくる。

回収されない疑問が残る。

そして自分が各人物を正しく鑑賞出来ているのか分からなくなってくる。

ついに堂々巡りです。

 

想像は掻き立てられますが、『白夜行』ほど自分の中で深く刺さるものはありませんでした。

でも、想像を掻き立てられるという事自体が楽しい読書体験でありました。

特に「一体真犯人は誰なのか?」という問いの辿り着く先を想像する事が。

そういう意味では、最終章の印象が特に色濃く残る作品でした。

 

 

 

『ユージニア』

★★★★☆  /  (4点)

『人形はなぜ殺される』 / 高木彬光

 

読了順とは異なりますが、先にこの作品を。

ちなみに上記リンク先の本ですが、表題作『人形はなぜ殺される』の他に2編の短編が収録されています。

今回は『人形はなぜ殺される』のみに触れるつもりです。

 

さて、言わずと知れた本格推理小説『人形はなぜ殺される』です。

『刺青殺人事件』を読んだのはいつ頃の事だったろうか・・・。

結構間が空いてしまいました。

これは本作を読むまで知らなかった事ですが、本作は『刺青殺人事件』の次に上梓された神津恭介の長編ものだそうですね。

いずれにしても、自分はこの2作しか読んでませんが。

 

まずリンク先のあらすじが簡素過ぎるので、以下wikipediaのあらすじをそのまま貼り付けます。

 

新作魔術(マジック)発表会のさなか、ギロチン手品のタネである人形の首が盗まれる。発見された人形の首は、断頭台で処刑された死体のかたわらに、本物の首の代わりに転がっていた。困惑する名探偵・神津恭介をあざ笑うかのように、人形が第2の、そして第3・第4の殺人を予告する。

Wikipedia【人形はなぜ殺される】より

 

出だしから読者への挑戦を叩きつける本作。

「人形はなぜ殺される?」という疑問を読者へと投げかけます。

作者がやたらとこの点を強調していますし、探偵役である神津恭介もこの疑問が解消されない限りこの事件の解決はないと断言しております。

故に、幾つも疑問は浮かび上がるのですが、特にこの「人形はなぜ殺される?」という疑問が頭から離れなくなります。

そして解決編の前に「読者への挑戦状」が再度叩きつけられます。

その挑戦状の前にとある人物が解決のヒントとなるような手記を残している事が判明するのですが、これがなかなか面白いです。

 

それは一旦置いておいて、まず事件ごとに感想を書いていきたいと思います。

まず第一の事件・・・と言っても具体的には触れませんが。

自分はこの事件が一番引っかかていました。

ネタバレになるので具体的には書けないのですが、この被害者って・・・。

この疑問に対して自分なりに考えてみるんですが、自分の考え通りだとして、どうも整合性が取れない状況になってしまいます。

結局これは自分の考えが足りないだけで、方法はちゃんと眼前にあったのです。

解決編を終わってみれば、やっぱり自分の疑念は正しかった、でも方法が見破れなかった・・・。

 

そして第二の事件。

この事件のトリックが恐らく本作を一段も二段も押し上げている要因でしょう。

自分も見破れませんでした。

すなわち「人形はなぜ殺される?」。

この疑問が解ければ、この第二の事件も解ける事でしょう。

 

続いて第三の事件。

この第三の事件と先に起きた第二の事件のせいで、正直犯人は何となく分かってしまいました。

この事件は特に書くことがないです。

 

そして第三の事件の後に、【とある人物の手記】が発見される訳ですが、この手記が事件解決のヒントの暗示となっており、そのことは【読者への挑戦状】で作者も述べています。

この【手記】と「人形はなぜ殺される?」という疑問を自分なりに色々考えてみるのですが、真相が掴めそうで掴めません。

【手記】から考えても、犯人は恐らく間違いない。

(とは言っても、ややこしい人物が混ざっていますが)

でもそうすると第二の事件は一体・・・。

そして第一の事件も届きそうで届かない。

 

こういったモヤモヤが解決編で全て晴れます。

第一の事件のこと、第二の事件のこと、第三の事件のこと、そして【手記】が暗示していたもの、「人形はなぜ殺される?」という問いの答え。

モヤモヤが一気に晴れる爽快感はまさに本格推理小説、流石は本格推理小説です。

お見事!という気持ちと悔しい!という気持ちが入り混じります。

何度でも味わいたい感覚です。

 

ただ、本作は日本三大名探偵に数えられる神津恭介が犯人はおろか周りの魔術師たちにも遅れを取る様な失態を演じています。

これまで、犯行を食い止められず犠牲者を大量に出してしまう・・・というケースは何度も見てきましたが、これほどまでに素人にコケにされる探偵は見たことがありません。

間違った方に断定的に進んでしまうという事からも、妙に斜に構えてる分より滑稽に見えてしまうという意見には頷ける所があります。

この、探偵役がはっきり言って無能に見えてしまうという所が大きなマイナスになってしまった読者も多いようですね。

そしてそのイメージを払拭するために、他の作品も読んでみようと考えた人も少なくないようで。

そして自分も、そんな考えを持った一人であります。

 

 

ということで本格推理小説『人形はなぜ殺される』ですが、本格の名に相応しい作品でした。

ただ自分は面白さで言えば本作かも知れませんが、『刺青殺人事件』の方が好きですね。

本格らしい味わいは本作の方が存分に味わえますし、純粋な推理を堪能出来るのは本作の方だと思います。

でも事件の流れや物語の運び、それと犯人の人格や動機の観点から考えると『刺青殺人事件』の方が自分好みでした。

ただ本作のトリックも見事でしたので、評価が難しいところですね。

結局解けなかったけど、【手記】の暗示を推理するのは楽しかったな~。

 

あ、そうそう。

本作の作中に『刺青殺人事件』と並んで『甲冑殺人事件』という事件の名前が登場しますが、巻末の解説によると『甲冑殺人事件』という作品は無いのだとか。

「これは読まねば!」と考えていたので、解説に無いということが書いてあって助かった。

でも神津恭介が登場する他作品並びに高木彬光の作品は他にも読んでみたいですね。

 

 

楽しみに残しておいた『人形はなぜ殺される』も読了出来ました。

映像版が観てみたい、と思ったら映像版はあるそうですがトリックが大幅に改変されていて全くの別物になっているとか。

うーん・・・それはそれで観てみたいような。

 

 

 

『人形はなぜ殺される』

★★★★☆  /  (4点)

『りら荘事件』 / 鮎川哲也

 

新年一発目は特に期待値の高い作品を読むことにしていますが、今年は『りら荘事件』でした。

『黒いトランク』を読んだのが、2年前くらいになるのでしょうか。

とにかく『黒いトランク』が面白かったので、本作も期待しておりました。

 

さて、本作の感想をどう書こうか悩んだのですが、今回はネタバレありで書こうかなと思います。

自分用の記録としても、本作はそうするのが一番良いかなと考えました。

ということで、前置きなしで早速ネタバレありの感想を書いていきます。

 

 

 

 

以下ネタバレあり!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず出だしから良かった。

りら荘もといライラック荘の成り立ちや過去の描写がありますが、いきなり本格推理小説の雰囲気を味わいました。

これこれ!という感じで先に進めると、今回は日本芸術大学なる芸大生たちが繰り広げる物語のよう。

しかも、紹介からすでに芸術家気質を見せてくれており、どの人物も一癖も二癖もある人たちです。

しかも互いに仲が悪い様子で、いきなり険悪なムードです。

こういった雰囲気や一部人物の様子から、自分は坂口安吾の『不連続殺人事件』を想起させました。

結局最後まで『不連続殺人事件』の印象が頭から離れませんでした。

 

さて、肝心の事件ですが、とにかく人が沢山殺されます。

レビューも色々読みましたが、「殺され過ぎ」なんて意見もありました。

確かに登場人物が減るごとに犯人が特定し易くなる訳ですが、本作は逆にそれを逆手にとったトリックも使われています。

まぁ簡単に殺され過ぎでは?と思う犯行もありますが。

 

本作の謎解きは色々な要素が絡んでおり、フーダニットでもあり、ハウダニットでもあります。

でも実はホワイダニットも大事な要素で、自分も二条がそれを仄めかした事を言うまではあまり考えていませんでした。

そして謎解きに関しては、終わってみればヒントは至る所に散らばっており、「どうして気づかなかった、何故考えなかった・・・」と自分を悔い改めるようなフェアなトリックでした。

以下、謎解き要素について触れたいと思います。

 

 

・トランプを用いた錯誤トリック

推理小説に読み慣れている方は見抜けるのかも知れませんが、自分はすんなり騙されました。

終わってから振り返ると、当然疑うべきトリックでした。

これに絡めて、橘の死体の発見状況から考えても、こちらが先の可能性があるということは十分考えられることでした。

 

・砒素混入トリック

いやはやこんな方法があったとは。

現実的に可能なのかよく分かりませんが、考えもしませんでした。

リリスが両親とは異なる肌の色をしているということで、てっきり義理の娘かなとか考えてました。

これは見抜けなくても仕方ない。

 

・謎の6桁の数字

自分が見抜けなくて最も悔しいと思っている事の一つ。

リリスが虚言を述べた訳ですが、そもそもそれが虚言だったと思い至るべきでした。

これはまた後程触れようと思いますが、とにかく尼リリスの人物像から考えて、彼女の言動には疑うべき点、気づくべき点が沢山ありました。

この「6桁の数字」に関しても、由木刑事が東京で行った捜査が空振りだった時点で、彼女の発言を疑うべきでした。

 

・ブルーサンセット

自分が唯一見抜けたのがこの謎解きです。

これは以前プレイした『御神楽少女探偵団』というゲームで同じような設定が使われており、それを元にずっと疑う事が出来ました。

そもそも行武が音楽学部に移ってきたという話から、ちょっと疑っていました。

でも、これが見抜けたからと言って、それを謎解きに役立てることは出来ませんでした。

色盲だと思い至った所で、ナイフについての疑いは全く持ちませんでした。

堂々と描写されてるんですけどね・・・。

しかし、この発言に関しては松平紗絽女は本当に嫌な奴ですね。

まぁ本作の登場人物は牧以外は全員嫌な奴なんですが・・・。

 

・尼リリスの殺害

何故、どうやって二階で・・・?

という謎解き自体は正直大したことないのですが、この犯行では犯人も動機もこれまでの犯行とは異なっているという所が、犯人予想対象の生き残りが減った中でも一筋縄で終息させないという見事な仕掛けだったと思います。

勿論気づきませんでした。

今思うと、ここはある意味「不連続殺人事件」になってるんですよね。

 

・動機について

二条はそもそも橘が牧に個人的に話していた「女の不貞」についての話から、諸々の犯行を関連付けて謎を解いていった訳ですが、これは思いもよりませんでした。

というか、自分はそもそも尼リリスと牧数人が婚約関係にあるという一文を何故か頭に入れておらず、終盤で「え?そうだったの!?」なんて情けない気づきをしたくらいです。

それでは思い至れるわけがない・・・。

 

 

主要トリックについてはこれくらいでしょうか。

以下、今度はそれ以外に自分が凄いと思った点や逆にこれはどうなの?と言った点を書いていきます。

 

 

・人物描写について

自分が一番見事だと思っているのは、実はこの部分です。

レビューでは人物描写が弱い、などの意見も観られましたが、自分はそうは思いません。

むしろこれだけキャラを濃くしている事で、逆に読者にヒントを与えていると思います。

そして、同時に読者を騙す要因にもなっていると思います。

特に尼リリスの造形は一貫していて、読者側には散々強く印象付けているにも関わらず、何故か発言に関しての性格の不一致は無視してしまう。

この部分が見抜けなかった事が一番悔しいです。

何度も言いますが、散々ヒントは書かれてますからね。

この真っ向勝負には脱帽です。

 

・無能な警察

これも色々なレビューで書かれている事です。

これに関しては全くの同意見です。

剣持警部なんて雰囲気だけは有能な警部を醸し出していながら、活躍する場面は全くないという。

正直、自分は由木刑事が犯人なのでは?と一回疑ったりもしました。

でもそうすると2つ目の犯行が意味不明になってしまい、その推理は断念しましたが。

しかし、「もうこれ以上の犯行は起こらないはずです」と警察が発言してから、一体何人殺されているんだろう。

真相を見抜けたなかった自分を棚に上げての意見になりますが、この過信はいただけない。

一番無能だと思ったのが、証言の裏を取っていなかったこと。

リリスが郵便局に行ったという証言に対して、裏を取っていればすぐに「おや?」となったはず。

それで真相に辿り着けたとは思えませんが、ちょっと捜査が杜撰では。

 

・二条の死

目次を先に読んでいる時点で、最後の方に「星影龍三」と載っているのを知っていたので、「ああ、二条は死ぬんだろうな」と分かってしまいますね。

自分は星影龍三が探偵だということを本作を読むまで知りませんでしたが、きっとそういう事なんだろうなと予想をつきました。

だから、二条が東京からりら荘に戻ってくるという話になった際に「警護をつけるべきだ!」と思っていましたが、案の定あっさりと殺されるというね。

有能さは垣間見えただけに、かませ犬としての落とされ方もある意味良かったですね。

 

・登場人物への嫌悪感

これ程までに嫌な人物ばかりが登場する作品も珍しい・・・というか現代では不可能では?

嫌悪感、と書きましたが自分はそこまで感情移入して本作を読んだ訳では無いので、普通に面白かったです。

これは偏見ですが、芸術家らしい嫌味さを全員持っていて、誰が殺されても何も思わない。

ちなみに自分が一番苦手だった登場人物は生き残りました(笑)

 

・尼リリスという名前について

これは何かのレビューに書かれていて思わず笑ってしまったんですが、尼リリスが亡くなった後に両親がりら荘にやってきますが、その際に母親が「リリちゃん」と娘のことを呼びますが、その呼び方するなら「かめ」なんて名前付けてやるなよって、確かにその通りだなと(笑)

ここだけ余談でした。

 

 

 

ということで、本作には色々書きたい事があったので箇条書き形式でまとめてみました。

何か書き忘れがありそうですが・・・。

そして本作に関しての感想をまとめると、THE本格推理小説という雰囲気を久々に味わえてとっても良かった!ということです。

創元推理文庫版のあとがきにはトリックにケチが付けられていますが、それは確かに正論だと思いました。

でも、それは棚に上げてしまうとして、これだけ読者に推理のヒントが与えられていて、しかも「これは見抜けたのに!」という連続の解決編はすっきりするものがありました。

回りくどい挑戦ではなく、真っ向勝負で挑んでくるこういった推理小説がやっぱり一番好きかも知れない。

そんなことを改めて思わせてくれた、古典的名作を読む事ができてとても良かったです。

そして、本作も含めた古典的名作が現代へと繋げたものあるがと考えると、やっぱり推理小説好きとしては本作は外せませんね。

鮎川哲也作品は『黒いトランク』と本作しか読んでいませんが、他にも読んでみようかな。

 

 

 

『りら荘事件』

★★★★★  /  (5点)