読了順とは異なりますが、先にこの作品を。
ちなみに上記リンク先の本ですが、表題作『人形はなぜ殺される』の他に2編の短編が収録されています。
今回は『人形はなぜ殺される』のみに触れるつもりです。
さて、言わずと知れた本格推理小説『人形はなぜ殺される』です。
『刺青殺人事件』を読んだのはいつ頃の事だったろうか・・・。
結構間が空いてしまいました。
これは本作を読むまで知らなかった事ですが、本作は『刺青殺人事件』の次に上梓された神津恭介の長編ものだそうですね。
いずれにしても、自分はこの2作しか読んでませんが。
まずリンク先のあらすじが簡素過ぎるので、以下wikipediaのあらすじをそのまま貼り付けます。
新作魔術(マジック)発表会のさなか、ギロチン手品のタネである人形の首が盗まれる。発見された人形の首は、断頭台で処刑された死体のかたわらに、本物の首の代わりに転がっていた。困惑する名探偵・神津恭介をあざ笑うかのように、人形が第2の、そして第3・第4の殺人を予告する。
※Wikipedia【人形はなぜ殺される】より
出だしから読者への挑戦を叩きつける本作。
「人形はなぜ殺される?」という疑問を読者へと投げかけます。
作者がやたらとこの点を強調していますし、探偵役である神津恭介もこの疑問が解消されない限りこの事件の解決はないと断言しております。
故に、幾つも疑問は浮かび上がるのですが、特にこの「人形はなぜ殺される?」という疑問が頭から離れなくなります。
そして解決編の前に「読者への挑戦状」が再度叩きつけられます。
その挑戦状の前にとある人物が解決のヒントとなるような手記を残している事が判明するのですが、これがなかなか面白いです。
それは一旦置いておいて、まず事件ごとに感想を書いていきたいと思います。
まず第一の事件・・・と言っても具体的には触れませんが。
自分はこの事件が一番引っかかていました。
ネタバレになるので具体的には書けないのですが、この被害者って・・・。
この疑問に対して自分なりに考えてみるんですが、自分の考え通りだとして、どうも整合性が取れない状況になってしまいます。
結局これは自分の考えが足りないだけで、方法はちゃんと眼前にあったのです。
解決編を終わってみれば、やっぱり自分の疑念は正しかった、でも方法が見破れなかった・・・。
そして第二の事件。
この事件のトリックが恐らく本作を一段も二段も押し上げている要因でしょう。
自分も見破れませんでした。
すなわち「人形はなぜ殺される?」。
この疑問が解ければ、この第二の事件も解ける事でしょう。
続いて第三の事件。
この第三の事件と先に起きた第二の事件のせいで、正直犯人は何となく分かってしまいました。
この事件は特に書くことがないです。
そして第三の事件の後に、【とある人物の手記】が発見される訳ですが、この手記が事件解決のヒントの暗示となっており、そのことは【読者への挑戦状】で作者も述べています。
この【手記】と「人形はなぜ殺される?」という疑問を自分なりに色々考えてみるのですが、真相が掴めそうで掴めません。
【手記】から考えても、犯人は恐らく間違いない。
(とは言っても、ややこしい人物が混ざっていますが)
でもそうすると第二の事件は一体・・・。
そして第一の事件も届きそうで届かない。
こういったモヤモヤが解決編で全て晴れます。
第一の事件のこと、第二の事件のこと、第三の事件のこと、そして【手記】が暗示していたもの、「人形はなぜ殺される?」という問いの答え。
モヤモヤが一気に晴れる爽快感はまさに本格推理小説、流石は本格推理小説です。
お見事!という気持ちと悔しい!という気持ちが入り混じります。
何度でも味わいたい感覚です。
ただ、本作は日本三大名探偵に数えられる神津恭介が犯人はおろか周りの魔術師たちにも遅れを取る様な失態を演じています。
これまで、犯行を食い止められず犠牲者を大量に出してしまう・・・というケースは何度も見てきましたが、これほどまでに素人にコケにされる探偵は見たことがありません。
間違った方に断定的に進んでしまうという事からも、妙に斜に構えてる分より滑稽に見えてしまうという意見には頷ける所があります。
この、探偵役がはっきり言って無能に見えてしまうという所が大きなマイナスになってしまった読者も多いようですね。
そしてそのイメージを払拭するために、他の作品も読んでみようと考えた人も少なくないようで。
そして自分も、そんな考えを持った一人であります。
ということで本格推理小説『人形はなぜ殺される』ですが、本格の名に相応しい作品でした。
ただ自分は面白さで言えば本作かも知れませんが、『刺青殺人事件』の方が好きですね。
本格らしい味わいは本作の方が存分に味わえますし、純粋な推理を堪能出来るのは本作の方だと思います。
でも事件の流れや物語の運び、それと犯人の人格や動機の観点から考えると『刺青殺人事件』の方が自分好みでした。
ただ本作のトリックも見事でしたので、評価が難しいところですね。
結局解けなかったけど、【手記】の暗示を推理するのは楽しかったな~。
あ、そうそう。
本作の作中に『刺青殺人事件』と並んで『甲冑殺人事件』という事件の名前が登場しますが、巻末の解説によると『甲冑殺人事件』という作品は無いのだとか。
「これは読まねば!」と考えていたので、解説に無いということが書いてあって助かった。
でも神津恭介が登場する他作品並びに高木彬光の作品は他にも読んでみたいですね。
楽しみに残しておいた『人形はなぜ殺される』も読了出来ました。
映像版が観てみたい、と思ったら映像版はあるそうですがトリックが大幅に改変されていて全くの別物になっているとか。
うーん・・・それはそれで観てみたいような。
『人形はなぜ殺される』
★★★★☆ / (4点)