アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『りら荘事件』 / 鮎川哲也

 

新年一発目は特に期待値の高い作品を読むことにしていますが、今年は『りら荘事件』でした。

『黒いトランク』を読んだのが、2年前くらいになるのでしょうか。

とにかく『黒いトランク』が面白かったので、本作も期待しておりました。

 

さて、本作の感想をどう書こうか悩んだのですが、今回はネタバレありで書こうかなと思います。

自分用の記録としても、本作はそうするのが一番良いかなと考えました。

ということで、前置きなしで早速ネタバレありの感想を書いていきます。

 

 

 

 

以下ネタバレあり!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まず出だしから良かった。

りら荘もといライラック荘の成り立ちや過去の描写がありますが、いきなり本格推理小説の雰囲気を味わいました。

これこれ!という感じで先に進めると、今回は日本芸術大学なる芸大生たちが繰り広げる物語のよう。

しかも、紹介からすでに芸術家気質を見せてくれており、どの人物も一癖も二癖もある人たちです。

しかも互いに仲が悪い様子で、いきなり険悪なムードです。

こういった雰囲気や一部人物の様子から、自分は坂口安吾の『不連続殺人事件』を想起させました。

結局最後まで『不連続殺人事件』の印象が頭から離れませんでした。

 

さて、肝心の事件ですが、とにかく人が沢山殺されます。

レビューも色々読みましたが、「殺され過ぎ」なんて意見もありました。

確かに登場人物が減るごとに犯人が特定し易くなる訳ですが、本作は逆にそれを逆手にとったトリックも使われています。

まぁ簡単に殺され過ぎでは?と思う犯行もありますが。

 

本作の謎解きは色々な要素が絡んでおり、フーダニットでもあり、ハウダニットでもあります。

でも実はホワイダニットも大事な要素で、自分も二条がそれを仄めかした事を言うまではあまり考えていませんでした。

そして謎解きに関しては、終わってみればヒントは至る所に散らばっており、「どうして気づかなかった、何故考えなかった・・・」と自分を悔い改めるようなフェアなトリックでした。

以下、謎解き要素について触れたいと思います。

 

 

・トランプを用いた錯誤トリック

推理小説に読み慣れている方は見抜けるのかも知れませんが、自分はすんなり騙されました。

終わってから振り返ると、当然疑うべきトリックでした。

これに絡めて、橘の死体の発見状況から考えても、こちらが先の可能性があるということは十分考えられることでした。

 

・砒素混入トリック

いやはやこんな方法があったとは。

現実的に可能なのかよく分かりませんが、考えもしませんでした。

リリスが両親とは異なる肌の色をしているということで、てっきり義理の娘かなとか考えてました。

これは見抜けなくても仕方ない。

 

・謎の6桁の数字

自分が見抜けなくて最も悔しいと思っている事の一つ。

リリスが虚言を述べた訳ですが、そもそもそれが虚言だったと思い至るべきでした。

これはまた後程触れようと思いますが、とにかく尼リリスの人物像から考えて、彼女の言動には疑うべき点、気づくべき点が沢山ありました。

この「6桁の数字」に関しても、由木刑事が東京で行った捜査が空振りだった時点で、彼女の発言を疑うべきでした。

 

・ブルーサンセット

自分が唯一見抜けたのがこの謎解きです。

これは以前プレイした『御神楽少女探偵団』というゲームで同じような設定が使われており、それを元にずっと疑う事が出来ました。

そもそも行武が音楽学部に移ってきたという話から、ちょっと疑っていました。

でも、これが見抜けたからと言って、それを謎解きに役立てることは出来ませんでした。

色盲だと思い至った所で、ナイフについての疑いは全く持ちませんでした。

堂々と描写されてるんですけどね・・・。

しかし、この発言に関しては松平紗絽女は本当に嫌な奴ですね。

まぁ本作の登場人物は牧以外は全員嫌な奴なんですが・・・。

 

・尼リリスの殺害

何故、どうやって二階で・・・?

という謎解き自体は正直大したことないのですが、この犯行では犯人も動機もこれまでの犯行とは異なっているという所が、犯人予想対象の生き残りが減った中でも一筋縄で終息させないという見事な仕掛けだったと思います。

勿論気づきませんでした。

今思うと、ここはある意味「不連続殺人事件」になってるんですよね。

 

・動機について

二条はそもそも橘が牧に個人的に話していた「女の不貞」についての話から、諸々の犯行を関連付けて謎を解いていった訳ですが、これは思いもよりませんでした。

というか、自分はそもそも尼リリスと牧数人が婚約関係にあるという一文を何故か頭に入れておらず、終盤で「え?そうだったの!?」なんて情けない気づきをしたくらいです。

それでは思い至れるわけがない・・・。

 

 

主要トリックについてはこれくらいでしょうか。

以下、今度はそれ以外に自分が凄いと思った点や逆にこれはどうなの?と言った点を書いていきます。

 

 

・人物描写について

自分が一番見事だと思っているのは、実はこの部分です。

レビューでは人物描写が弱い、などの意見も観られましたが、自分はそうは思いません。

むしろこれだけキャラを濃くしている事で、逆に読者にヒントを与えていると思います。

そして、同時に読者を騙す要因にもなっていると思います。

特に尼リリスの造形は一貫していて、読者側には散々強く印象付けているにも関わらず、何故か発言に関しての性格の不一致は無視してしまう。

この部分が見抜けなかった事が一番悔しいです。

何度も言いますが、散々ヒントは書かれてますからね。

この真っ向勝負には脱帽です。

 

・無能な警察

これも色々なレビューで書かれている事です。

これに関しては全くの同意見です。

剣持警部なんて雰囲気だけは有能な警部を醸し出していながら、活躍する場面は全くないという。

正直、自分は由木刑事が犯人なのでは?と一回疑ったりもしました。

でもそうすると2つ目の犯行が意味不明になってしまい、その推理は断念しましたが。

しかし、「もうこれ以上の犯行は起こらないはずです」と警察が発言してから、一体何人殺されているんだろう。

真相を見抜けたなかった自分を棚に上げての意見になりますが、この過信はいただけない。

一番無能だと思ったのが、証言の裏を取っていなかったこと。

リリスが郵便局に行ったという証言に対して、裏を取っていればすぐに「おや?」となったはず。

それで真相に辿り着けたとは思えませんが、ちょっと捜査が杜撰では。

 

・二条の死

目次を先に読んでいる時点で、最後の方に「星影龍三」と載っているのを知っていたので、「ああ、二条は死ぬんだろうな」と分かってしまいますね。

自分は星影龍三が探偵だということを本作を読むまで知りませんでしたが、きっとそういう事なんだろうなと予想をつきました。

だから、二条が東京からりら荘に戻ってくるという話になった際に「警護をつけるべきだ!」と思っていましたが、案の定あっさりと殺されるというね。

有能さは垣間見えただけに、かませ犬としての落とされ方もある意味良かったですね。

 

・登場人物への嫌悪感

これ程までに嫌な人物ばかりが登場する作品も珍しい・・・というか現代では不可能では?

嫌悪感、と書きましたが自分はそこまで感情移入して本作を読んだ訳では無いので、普通に面白かったです。

これは偏見ですが、芸術家らしい嫌味さを全員持っていて、誰が殺されても何も思わない。

ちなみに自分が一番苦手だった登場人物は生き残りました(笑)

 

・尼リリスという名前について

これは何かのレビューに書かれていて思わず笑ってしまったんですが、尼リリスが亡くなった後に両親がりら荘にやってきますが、その際に母親が「リリちゃん」と娘のことを呼びますが、その呼び方するなら「かめ」なんて名前付けてやるなよって、確かにその通りだなと(笑)

ここだけ余談でした。

 

 

 

ということで、本作には色々書きたい事があったので箇条書き形式でまとめてみました。

何か書き忘れがありそうですが・・・。

そして本作に関しての感想をまとめると、THE本格推理小説という雰囲気を久々に味わえてとっても良かった!ということです。

創元推理文庫版のあとがきにはトリックにケチが付けられていますが、それは確かに正論だと思いました。

でも、それは棚に上げてしまうとして、これだけ読者に推理のヒントが与えられていて、しかも「これは見抜けたのに!」という連続の解決編はすっきりするものがありました。

回りくどい挑戦ではなく、真っ向勝負で挑んでくるこういった推理小説がやっぱり一番好きかも知れない。

そんなことを改めて思わせてくれた、古典的名作を読む事ができてとても良かったです。

そして、本作も含めた古典的名作が現代へと繋げたものあるがと考えると、やっぱり推理小説好きとしては本作は外せませんね。

鮎川哲也作品は『黒いトランク』と本作しか読んでいませんが、他にも読んでみようかな。

 

 

 

『りら荘事件』

★★★★★  /  (5点)