アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

慟哭 / 貫井徳郎

慟哭 (創元推理文庫)

慟哭 (創元推理文庫)

この本を読み始めてすぐに、仕掛けられたタネが推理出来てしまいました。

お話としては、連続少女誘拐事件の捜査指揮を取り事件を追う佐伯と、どんな事情があったかは分からないが心に酷く深い傷を負い、救いを求めて新興宗教にハマっていく松本、この二人の描写が交互に繰り返されて進んでいきます。

佐伯の方は警察のキャリア組で、周りからはコネで出世したと誤解されるような複雑なバックボーンがあり、警察内部での風当たりの強さと敵の多さに少々いたたまれない気持ちになり、ちょっと読んでいて苦しかったです。

一方の松本の方はバックボーンが明確にされておらず、フラットな気持ちで読むことが出来ました。
松本は松本で頭の切れる人物だと言うのは読んでいてすぐに分かりますし、それが宗教にのめり込んでいく過程、宗教団体の実態、そして松本の出した一つの答えという流れで、こちらは普通に面白く読めました。

この本に仕掛けられたタネは、割りと簡単に分かってしまうような気がします。
推測出来そうな特徴が思い出せる限りでが3つ
ほどあり、もしやこれは・・・?と推理していました。
ただし、3つの特徴のうちの一つはなかなか一致しそうな描写が出てこず、その描写は最後の最後に出てきました。

タネ自体は分かりやすいですが、お話自体は十分面白く、何といっても飽きずに最後まで読めるのがとても良いです。
タイトルの「慟哭」ですが、本来の意味とはちょっと異なった描写で、その人物の性格をよく表しているように思いました。
ただし、この本の最後の最後のセリフは、それこそ慟哭ものなのかも知れませんが。
タイトルがタイトルなだけに、自分も慟哭する程の衝撃をある意味期待していたのですが、それはありませんでした。

ただし、繰り返しになりますがお話自体は十分面白かったです。
読んでいて、推理小説の初心者が読むには丁度良い内容に思いました。
自分が勧めるなら『マリオネットの罠』よりも『慟哭』を選びます。



『慟哭』
★★★★☆ / (4点)