自分にとっては重要な「学生アリスシリーズ」です。
『双頭の悪魔』から15年経って発刊された本作だったので、敢えて間を空けるという「待つ楽しみ」を味わった1年半でした。
流石に15年も待つ気は無かったので、ここでジョーカーとも言える本作を切りました。
自分にとって本シリーズの初作である『月光ゲーム』は忘れられない作品であるのと同時に、推理小説の世界へハマる機会を授けてくれた大事な作品であります。
そんなシリーズの中でも『双頭の悪魔』は読みごたえが前2作とは比べ物にならない程の重厚な作品で、今でもあの世界観を呼び起こすことが出来るほどです。
そんな期待以上のワクワクを与えてくれた前作ですから、ハードルは一段と高くなっていた訳ですが・・・。
残念ながら期待値が高すぎたのかも知れません。
前作ではマリアが自分勝手な行動を取り行方不明状態となっていましたが、今回は何と我らが部長の江神二郎が行方不明となってしまいます。
結果的に居場所はすぐ突き止められる訳ですが、分かったところで簡単に会えない。
何と江神はとある宗教団体の施設に匿われていました。
そんな宗教団体とすったもんだ起こすのが本作です。
勿論事件が起こります。
殺人事件です。
それが宗教団体の施設内で起きるものだからまぁ大変。
通常の捜査は行われず、警察の介入を主張する江神御一行とそれを拒む宗教団体「人類協会」の壮絶な戦いが繰り広げれられます・・・。
自分が本作を読んで覚えた感想はまず「なげぇよ」でした。
いやー結構読むのに苦戦してしまいました。
それは本格推理小説ならではの複雑なパズルについていけなかった、ということではなく宗教の話、SFの話、社会の話・・・etc、とにかく横道に逸れる話が多い印象でした。
物語中に横道に逸れること自体は嫌いではないのですが、本作では全然楽しめなかった。
古今東西の推理小説・SF小説・漫画の話が出てきますが、自分は殆ど分かりませんでした。
とりあえずクイーンの『チャイナ蜜柑の秘密』は読んでおいて良かった。
それから警察を呼ぶ、呼ばないという押し問答が何度も起こるので正直飽き飽きとしてしまいました。
閉じ込められた施設から各々が脱出を試みる場面などは面白いのですが、逆にそれまでがちょっと長い印象です。
ただし、横道に逸れはしても本作はちゃんと本格推理小説になっています。
それも見事に。
江神部長が最後に推理を披露する場面で「一人はあなた」・・・って台詞が出てくる場面なんて、もう最高でした。
それとこれはあとがきにもありますが、下巻366ページの11行目の台詞には「やられた!!」という見事な快感がありました。
それが「一人はあなた」という場面に繋がる訳ですね。
物語的な事で言えば最後のシーンはほっこりして良かったです。
ある種異常な世界で起きる殺人事件であったために普通でないというのは百も承知ですが、ちょっと横道に逸れて異常な世界を演出し過ぎたのでは?という感想が拭えません。
本格推理小説らしいロジカルな謎解きはお見事で本当に快感を味わえるんですが、もうちょっとスマートに出来ませんか?というのが正直な感想です。
ただそれも全て最後の解決編への壮大な前振りだったと思えば、少しは納得がいきます。
それくらい江神の推理は最高でした。
「そうそう、これこれ!」っていう感覚。
ごちそうさまでした。
あと、これは余談なんですが、この作品が世に出たのは2007年です。
でも舞台は『双頭の悪魔』から地続きのため恐らく1990年です。
作中でどういうことが起こっているかと言うと、未来からの1990年へのメッセージとも言える描写が幾つか出てきます。
なんせ携帯電話も普及していない時代ですから。
そういうのは面白かったです。
それと、もう一つ個人的な余談。
今回も書店で購入したのですが、買った本が初版でした。
上下巻とも。
初版は2011年ですって。
嬉しいような悲しいような。
閑話休題。
このシリーズは、次は短編集があるのでそれはなるべくすぐに読むつもりです。
でもその後は未だに発表されていないということで、次で最後なのか、いや最後じゃなくても読みたい。
次に出る作品は文庫化を待たずに新書で買ってしまうかもしれない。
それくらいに大好きなシリーズで、それは本作を読んでも変わりはしませんが、読後の疲労感が素直に「面白かった!」と吹っ切れる感じでも無かった分マイナスになってしまいました。
ただ、『双頭の悪魔』まで読んだ方は読むべき作品ですね。
ただし、長いです。
次の『江神二郎の洞察』も楽しみにしてますけど、ハードルは下げておこうかな。
『女王国の城』
★★★(★)☆ / 3.5点