アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『シタフォードの秘密』 / アガサ・クリスティ

 

これまた冬に読むのに丁度良い本を探していた時に見つけた作品です。

この作品のタイトルだけは江戸川乱歩が選んだクリスティのベスト8で見かけていたので知っていました。

なんでも江戸川乱歩の他に坂口安吾も『推理小説論』という作品の中で本作のトリックを絶賛しているとか。

本作にまつわる部分のみですが、ネットで探し出して読むことが出来ました。

それらの話はまた後程。

 

さて、本作の表紙からも分かりますが本作は真冬の時期の物語になります。

物語の始まりから雪の降り積もっている描写があり、冬が好きな自分にとっては始まりからして既にワクワクしていました。

ホームズの『バスカヴィル家の犬』にも登場したダートムアにあるというシタフォード村が舞台となっており、終始雪に囲まれた描写が続きます。

ところがそんな冬を味わっていた気分も一変します。

シタフォード村のシタフォード山荘に集まった村人たちが「テーブル・ターニング」なるものを始めだします。

この「テーブル・ターニング」は日本で言う「こっくりさん」みたいなものです。

降霊会と称されたこの儀式で人物で不思議めいた殺人予告が起こります。

キーワードは「5時25分」。

ゲーム「かまいたちの夜」を彷彿とさせる展開です。

 

ここから実際の殺人事件の話になり、優秀な警部であるナラコット警部が登場します。

そこからあっという間に一人の容疑者が逮捕されますが、今度はその容疑者の恋人が何と探偵役となって奔走する展開となります。

本作の半分以上はその恋人であるエミリーが中心となる物語です。

このエミリーが苦手な方には本作は合わないかも知れません。

かくいう自分はどうなのかと言えば、正直エミリーはあまり好きではありませんでした。

嫌いという訳でもないのですが、まず村人たちも言っている通りエミリーの恋人のジムの為に行動するという図式がピンと来ません。

飽くまでこれは自分の感想ですが、どういう意味かは本作を読んで頂ければ少しは理解してもらえると思います。

それを除いてもエミリーは計算高い所がある割には周りにすんなりと受け入れられていくのも自分には超展開に思えてしまいました。

でも、これはただの自分の嫉妬かも知れません。

 

全体的な話では、物語としては面白いとは思うのですが、反面無駄に登場人物が多すぎる気がします。

フーダニットの仕掛けがある以上、読者側に容疑者の選択を水増しさせるのは分かるんですけど、本作では無駄なパズルにしか思えませんでした。

殆どの登場人物が事件には関係なさそうだということがすぐに分かるというのもあります。

 

このエミリーと登場人物の多さ以外で言えば、本作は十分面白かったです。

この作品もクリスティらしさが全開の仕掛けが施されています。

故に、ある程度クリスティ慣れした自分にはトリックは最後まで分かりませんでした犯人と動機については何となく分かってしまいました。

それでも最後まで楽しんで読むことが出来ました。

エミリーが苦手だとは書きましたが、エミリーの最後の選択は面白い展開でした。

自分はてっきり逆の展開を予想していましたしクリスティに限らず、そっちの展開になる作品のが多いのでは。

後の『杉の棺』や『パディントン発4時50分』にも繋がるような展開だと思いますが、『シタフォードの秘密』の方が先に出た作品というのが面白いですね。

犯人は何となく分かってはしまいましたが、エミリーの行動力とナラコット警部の推理力がどう交わるのか終盤はワクワクしました。

そして事件解決の瞬間は一瞬でした。

 

飽くまでこれは自分の思った事ですが、本作は無駄な伏線や引っ掛け、登場人物の水増しなんか無い方が面白かった気がします。

あるいはクリスティ慣れしていない頃に本作を読んでいたら印象が全く変わっていたかもしれません。

とにかく、自分には本作がクリスティの初期の頃の作品だとは思えませんでした。

それくらいの円熟味を感じました。

ケチもつけましたが、面白かった。

本当に面白かったです。

 

 

さて、最初の江戸川乱歩坂口安吾の話です。

江戸川乱歩のベスト8に選んだ作品は本作を読了したことで全て読むことが出来ました。

江戸川乱歩が本作の何を絶賛していたのかは結局よく分かりませんが、坂口安吾は本作のトリックを絶賛していたそうです。

自分が参照したのは下記のサイトです。

 

smcb.jp

 

推理小説論』では本作の事を『吹雪の山荘』というタイトルで紹介しているとのこと。

昔はこういう和訳タイトルだったんですね。

推理小説論』の中で坂口安吾は本作のトリックを「意表をついたトリック」と称賛していますが、まぁ確かに意表をつかれたトリックではありました。

「このトリックの在り方は、推理作家が最大のお手本とすべきものであろう」とも述べているそうですが、そこまでのものなのかな・・・。

また、『推理小説論』の中で坂口安吾はクリスティのことを「自分の師匠なのである」と述べているとか。

そう考えると坂口安吾の『不連続殺人事件』がクリスティのとある作品と似ているのも必然だったのかも知れませんね。

 

 

ところで本作のドラマはミス・マープルが登場らしいですね。

感想レビューではポアロが出ていた、というのもありましたがどうなんでしょう。

本作の映像作品は冬を感じられて楽しそうですね。

いつか観てみたいです。

 

 

『シタフォードの秘密』

★★★★☆  /  (4点)