アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『不夜城』 / 馳星周

 

馳星周の作品を読むのは初めてになります。

 

いきなり余談から入りますが、馳星周と言えば自分にとってはゲーム<龍が如くシリーズ>でお馴染みでした。

龍が如くシリーズ>と言えば日本の極道を描いた人気ゲームシリーズですが、馳星周はその人気シリーズにおいて「龍が如く」及び「龍が如く2」の脚本監修という事で名を連ねており、自分も<龍が如くシリーズ>は昔から大好きでしたので名前はずっと知っておりました。

と言っても、馳星周が関わるのは人気シリーズの序盤のタイトルのみになります。

しかしながら、自分はその馳星周が関わった序盤のタイトルである「龍が如く」と「龍が如く2」が断トツで好きな作品です。(<極シリーズ>は除く。あれは全くの別物で自分は好きではありません)

よく「龍が如くと言えば骨太なストーリー」という感想を目にしますが、正直このシリーズのストーリーが本当に面白かったのは「龍が如く」及び「龍が如く2」、そして「龍が如く見参!」までだったと自分は思っています。

それ以降もシリーズは全部やっていますが、ストーリーが面白いと思ったのは「7」くらいのものです。

勿論ゲームの楽しさとしてストーリーが全てを占める訳ではありませんので、好きなタイトルは他にもあります。

ですが、やっぱりストーリーは作品の雰囲気作りという観点ではどうしても外せない要素であり、「龍が如く」及び「龍が如く2」は本当に凄かった。

もう全部馳星周に脚本監修して欲しいくらいです。

龍が如くシリーズ>の脚本は横山さんという方が手掛けておられますが、最初は馳星周に相当厳しい言葉で色々と指摘されたそうです。

やはり<良い物>という物は一筋縄ではいかないのですね。

ということで<龍が如くシリーズ>の話をこのまま続けても良いのですが、それはまた別の機会に・・・。

 

やっと本題です。

本作は97年の「このミステリーがすごい!」等で1位も取っている作品です。

前回取り上げた『新宿鮫』と一緒に購入しました。

新宿鮫』から読んだのは、そっちの方が先に出版されていた作品だったからです。

新宿鮫』は思っていたよりもマイルドなお話でしたが、本作は紛うことなくハードボイルドなストーリーでした。

故にちょっとしたグロ描写もあります。

そして、本作巻末の解説にも書いてありましたが、本作に登場する人物の中で感情移入出来るキャラクターは皆無です。

日本の極道ものにあるような<人情>だとか<友情>、<信頼>なんて言葉が通用する作品ではありません。

状況に応じてそれぞれの登場人物が味方に回ることもありますが、それはその場限りの状況においてのことで、基本的には全員が敵同士なのです。

故に物語としては一気に読めてしまうくらい面白いのですが、はっきり言って印象には残りにくい気がします。

しっかりハードボイルドしているし、「これこれ!」というような展開も悪人だらけではあるのですが、心に残るシーンが殆どありません。

そういう意味ではハードボイルドに期待している<熱量>みたいなものは本作では味わえないかも知れません。

でも面白いんです。

この輪になって戻ってくるような着地も自分は好きです。

そしてこの着地点の先が続編以降どう繋がるのがメチャクチャ気になります。

そういう意味では、『新宿鮫』は単体でも十分楽しめましたが、この『不夜城』に関してはシリーズ全体で楽しむ作品なのかも知れません。

そしてシリーズ通して読んだ先に、もしかすると心に残る「何か」があるのかも知れませんね。

 

本当にどうしようもない奴らが残念な暴れ方をし続ける展開で、主人公もどちらかと言えばダサいと思います。

ただ主人公のバックボーンも壮絶さがあり、いや主人公以外の誰もが壮絶なバックボーンがあり、徐々に語られていくスタイルが飽きずに最後まで読むことが出来ました。

また、本作も『新宿鮫』と同じく歌舞伎町を主な舞台としており、街の語られ方は本作の方が細かくて良かったです。

新宿鮫』にもサブナードですとかは出てきましたけど、本作はもっと細かい通り名とかも出てきて楽しかったです。

例えば

区役所通りを北へ向かい、風林会館の手前を右に折れ、パワーステーションへ向かう途中に

という描写があって、頭の中で浮かべながら読むのは楽しかったです。

他にもゴールデン街等も登場しますが、90年代の花園神社周辺は今とは雰囲気が全く違うんだろうな(と諸先輩方からも聞いたことがある)・・・なんてことを思いながら読みました。

リアルに青龍刀を持ち歩いてる中国人が暴れていたら、さぞ怖い・・・怖いなんて言葉じゃ済まないでしょうね。

そんな人が本当に居たのかは知りませんが。

 

ということで、期待していたハードボイルドさもあり、逆に足りなかった部分もある不思議な作品ですが、面白かったのは間違いありません。

これは早めに次回作も読まないと、置いてけぼりになるかも知れません。

本作は色々と派閥があって、結構複雑な関係になってますし、印象に残りそうで残らない話でもありますので・・・。

と言うとつまらなそうに思えますが、面白かったですよ本当に。

上手く言えないだけで。

 

 

★★★★☆  /  (4点)