本当は、最初は『模倣犯』を読もうと思っていたのですが、思っていたより長くてついて手が出ず、こちらの『理由』に変更しました。
『ソロモンの偽証』なども読んでみたいとは思いつつも、やはりその長さになかなか手が出ません。
同じ直木賞の作品で言えば恩田陸の『蜂蜜と遠雷』なんかも物凄く読んでみたいとは思うのですが・・・。
「そんな奴は読書なんか止めちまえ!」
と一喝されてしまいそうですが、それらの作品はいずれ絶対読みます。
ただ、読みたいと思っている本の中から読み易そうな本を先に読んでしまうという話です。
閑話休題。
ということで『理由』です。
宮部みゆき作品を自分はあまり多くは読んでないのですが、それでも数少ない「この人の作品が好き」と言える作家だと思っています。
この作品も文句なしに、とは言えませんがかなり面白かったです。
とある閉鎖的とも言えるマンションで起きた一家殺人事件と、バブル崩壊後のとある不動産トラブルに巻き込まれた様々な登場人物たちの人間模様とが複雑に絡み合う社会派ミステリーです。
この作品を読了後にいつも通り色々な解説やら感想やらを読み漁りましたが、感想が色々分かれていて面白かったです。
「前半はつまらなかったけど、後半は止まらなかった」ですとか、「登場人物が多すぎる」とか「無駄な説明が多すぎる」ですとか。
自分はラスト5分の1ほどまでは「なんて面白いんだ!」と思って読んでいました。
ところが大体の事実が分かってラスト突入というところになって、急に長さを感じてしまい、微妙なフィニッシュとなってしまいました。
自分が宮部みゆき作品で好きなのは、本筋とは何も関係ない部分にも細かい設定や説明が付されているところです。
本作は確かに登場人物は多いかも知れませんが、全員が丁寧に人物像が描かれているため、誰が誰だか分からないということはありませんでしたし、むしろ色んなキャラが観れて楽しかったくらいです。
そしてこの設定の仕方が面白い所です。
ドキュメンタリー的に描かれており、第三者から事実が述べられている場面とインタビュー形式で事件に関わった人物から話を聞く場面とに分かれています。
特に面白いのが後者の場面で、こちらでは登場人物側からの主観で事件が述べられる訳です。
それの何が面白いかと言えば々な角度から登場人物たちが事件を語ってくれること。
主観的な話になってしまうのでインタビュー形式の場面での話は信憑性が保たれない部分があること。
登場人物たちの人間関係がより明確になること。
事実に加えて感情的に話が伝わってくること等などです。
ただし、自分はこの手法は良い事ばかりでは無いのではと思っています。
インタビュー形式の場面での進行は、場面によっては野暮ったく感じてしまう部分があること。
事件に深く関わった全ての人物にインタビュー形式で語る場面が用意されるという訳ではないこと。
単純に事件を第3者の視点で語られている方が面白いと感じてしまったこと。
などなどの理由です。
この手法に試みたことには意義はあったと思いますし、実際面白いと思った部分もありましたので一概に否定する訳ではありません。
むしろこのモヤモヤが残る感じを狙ったのでは?とも思えます。
インタビュー形式は飽くまでも手法の一つで、この作品の見所の一つではありますが面白さの秘訣では無いと思います。
ある意味時代を先取りしたような家族の在り方、バブル崩壊後の社会情勢と不動産トラブル、そこに加わる登場人物たちの織り成すストーリーが一番の見所です。
平成初期が舞台ということでまだ昭和の雰囲気も残しつつ、時代が確実に現代に向かいつつあることが汲み取れる場面があるのが凄まじいです。
登場人物も本当に様々な人間が出てきますが、振り返ると中心に居るのはそれぞれの子供になっているのが面白いですね。
比較的子供たちが皆大人びていて、むしろ大人の方が子供じみているくらいです。
それはある意味やるせないとも思える反面、実際こんなものかもななんて冷めた見方をしてしまうこともありました。
子供らしい子供も居ましたけどね。
社会派ミステリーなんて言われてますが、やっぱり小説である以上物語自体に魅力が無いとこれだけ取り上げられることもきっと無いでしょう。
『火車』もそうですが、単なる社会派ミステリーに止まらない「小説」としての魅力を強力に作り上げられることが、宮部作品の最大の魅力ではないでしょうか。
一見不可解な事件に次々と意外な事実が浮かび上がり、それに伴い新たな登場人物たちが現れて点が線に繋がる。
そのミステリーさながらの楽しみ方が本書には適しているような気もします。
全体的にはやっぱり非常に面白かった。
登場人物の設定や時代背景も細かく描かれていて、終盤まではグイグイ読んでしまいました。
ただ、最後の最後で長さを感じてしまったのは結末が読めてしまったからなのか。
それとタイトルの「理由」というのがピンと来ず、自分には「そんなもの存在しない」という皮肉でこういうタイトルにしたのかなと考えたこともあります。
インタビュー形式で事件の背景を探る方法で登場人物たちの行動の「理由」を探るという意味なら、自分的にはイマイチなタイトルです。
色々とケチも付けましたが、本当に面白い作品だったことは間違いありません。
合う・合わないはあるかと思いますが・・・。
平成初期に宮部みゆきが居て本当に良かった。
余談ですけど、これは何かのレビューにも書かれていましたが石田直澄が東京に行くことを決めた理由については謎が残りました。
ちょっと気になる・・・。
『理由』
★★★★(★) / (4.5点)