アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『ポアロのクリスマス』 / アガサ・クリスティ (再読)

 

 

 

ずっと再読したいと思っていた作品ではありますが、正直このタイミングで読むつもりは全くありませんでした。

ところが書店で新訳版が並んでいるのを見て、衝動的に買ってしまいました。

表紙がいかにもクリスマスな感じです。

ちなみに読後に下の方のリンク先の旧訳版と序盤をパラパラ読んで何となく比較してみましたが、新訳版の方が読み易かったです。

飽くまで個人的な意見ですが。

 

さてという訳で『ポアロのクリスマス』です。

この作品は世間的な評価は高くないような気がしますが、個人的には大好きな作品の一つです。

内容も結構覚えている方の作品でしたので、すんなり入れました。

ちなみに「クリスマス」なんてタイトルに付いてますが、クリスマスから連想されるような楽しい雰囲気は殆どありません。

大家族のギスギスした関係が満載の作品ですし、クリスマスも殆ど関係ありません。

クリスティ自身も「もっと血が大量に流れる元気で狂暴な殺人」を目指していたようです。

でも自分は冬の雰囲気だけは味わえるので、そういう所は気に入っています。

 

ということ中身について。

内容は覚えている方の作品ではありましたが、それでも抜けて落ちている部分も多々ありました。

特に物語の出だしについては全く覚えていなかったので、少々面喰いました。

特に印象的な人物としてはハリー・リーが挙げられます。

ハリーに関しては新訳版に関しても印象が寸分も変わらず、トレッシリアンのような既視感が妙に懐かしく、また嬉しさもありました。

勿論、犯人についても忘れるわけがありません。

犯人が誰か?ということを分かった上で読み返してみると、犯人の会話部分の不自然さが妙に際立つ場面が何か所かあり、非常に面白かったです。

伏線の貼り方なども流石はクリスティ、さりげなく、自然に差し込んでいて思わずニヤリとしてしまいました。

 

本作は珍しく密室トリックを駆使していますが、このトリック自体は正直微妙かと。

ただ飽くまでもメタ的に本作読んだうえで、フィクションとして本作の状況を考えてみればそれはあり得ること・・・と言えなくもないかなと。

というか自分はあまりトリックが現実的か非現実的かというところは、余程極端でなければあまり気にならないようで、本作も「なるほどね!」という感じですんなり受け入れることは出来ました。

ただ気になる人は気になると思いますし、その考えは分からなくもないです。

とは言え本作の評価点は密室トリックの部分ではないと自分は考えます。

 

結局は本作もクリスティの巧みな物語運びが面白さを深める肝になっていると思います。

まず登場人物の造形に関しては見事だと思います。

それなりに登場人物も多いですが、夫婦とプラスアルファで考えれば簡単に覚えられるのではないでしょうか。

そうでなくても登場人物の人物造形がきっちりされていて、海外小説でここまで綺麗に色分け出来ているように感じるというのは凄すぎると自分は思っています。

一気読みしてしまうほど物語が面白いという事も、色分けの手助けをしていると思います。

そのしっかり人物造形されたキャラクターたちが繰り広げる会話が、これまたクリスティらしい不穏な空気を作り上げていて更に面白い。

謎解き要素だってしっかりしています。

密室トリックの事は置いておくとしても、本作にも真相に辿り着く過程でポアロが見抜く登場人物の裏側が幾つもあります。

その隠された裏側が終盤で一気に暴かれる様子は、これぞクリスティ、これぞ探偵小説と言わんばかりです。

そしてエピローグに関しては今までのギスギスした関係が少しだけかも知れませんが解かれ、ようやく家族らしい会話にちょっとだけ感動しました。

 

そしてもう一つ、この新訳版の巻末にある解説に関しても非常に良かったです。

その解説にある「ただ、クリスティーの魅力は『本格』の一言で括るにはあまりに膨大だ。」から繋がる文章は是非ご一読頂きたい。

クリスティファンならきっと頷いてくれるに違いない。

そう言えば解説を読んで気づきましたが、本作と『死との約束』は確かに似通っている部分がありますね。

更に、これはとあるレビューに書かれていた事になりますが、『ねじれた家』と本作も似通っている部分がありますね。

このような背景は使いやすいと言えば、確かにそうかもですね。

自分は少なくともその3作で比較しても、本作『ポアロのクリスマス』が一番好きです。

余談ですが、自分は『死との約束』はクリスティの某作品のネタバレをする場面がどうしても納得出来ず、その場面だけのせいであまり気に入っていません・・・。

解説には他に、

<クリスマスにはクリスティを>という当時の出版社が作ったキャッチフレーズを逆手に取り、そのクリスマスを象徴する<赤>の意味合いが変わってしまうようなとびきりショッキングな事件を用意した女王。

とありますが、まさにその通りですね。

 

とにかく自分が思う本作の魅力は登場人物の魅力さと物語の面白さ2点です。

というかクリスティの作品は殆どがそうなんですが、本作はそれがより強い気がします。

衝動的に買った作品でしたが、読み直して良かった。

大満足です。

また絶対読み直したい。

そんな風に思える、とても好きな作品でした。

 

まだまだ再読したい作品があるな~!

新訳版ってどうやって出版を決めてるんだろ。

良い機会になるからどんどんやって欲しいな。