昨年末に年始に読む本を買ったのですが、上下巻になっている作品を3つと短編集を一つという内訳でした。
その中の一つが前回紹介した『女王国の城』で、もう一つが本作です。
こんなに一気に三箇日で4冊も読めると思っていなかったのですが、本作は引き込まれるように朝までかけて読んでしまいました。
自分にとって初めての辻村深月作品であり、辻村深月さんのデビュー作でもあるそうです。
22年は『ハケンアニメ!』が実写映画化され、本屋大賞を受賞した『かがみの孤城』がアニメ映画化という、まさに飛ぶ鳥を落とす勢いのある辻村深月さんです。
『かがみの孤城』なんかいつか読みたいと思っています。
で、本作を読んだのは冬に読むのにちょうど良いような本が読みたい、と思って色々探している中で本作が気になったので手に取りました。
タイトルから何となく想像は出来ていましたが、学校に閉じ込められた高校3年生8人がそれぞれ主役となっている作品です。
何故閉じ込められたのか分からない、でも脱出も出来ない。
そんな中で文化祭の時に自殺したクラスメイトの記憶が全員無くなっている事に気づきます。
そしてこれまたひょんなことから、実はこの8人の内の誰かがその自殺した「クラスメイト」なのではないかと考え・・・。
というような導入になっています。
主人公たちが高校生ということもあり、青春っぽさも残ったサスペンスであり、ファンタジーでもありますね。
本格推理小説とは異なりますが、でも下巻の解決編の前に答案用紙を模したページが出てきて、自殺したクラスメイトの名前を問われるページが出てきます。
ちなみに自分はこのクラスメイトの名前を答えることは出来ましたが、もう一つの隠された仕掛けには気づくことが出来ませんでした。
そっちに関しては「描写が似ているな~」とは思ってはいたのですが、まさかまさか。
この小説はそういった謎解きを楽しむ側面も確かにあると思いますが、やっぱりそれを支えている「物語」が自分は好きです。
8人にはそれぞれのバックボーンがあって、それがきっちり描かれています。
みんなハードラックな暮らしをし過ぎじゃないか?とは思ってしまいますが・・・。
でも自分は特に清水の気持ちがよく分かってしまったのですが、こんな関係性を描けるこの同級生たちが心底羨ましく思えました。
特に菅原みたいな奴には。
これは誰かのレビューにもありましたが、菅原を主人公にして作品を一つ作って欲しいと思えるくらい魅力的なキャラクターでした。
菅原にスポットライトが当てられた章は最も長く、最も良かったです。
その他で言えば、まず作者と同名の「辻村深月」なるキャラクターが登場します。
「有栖川有栖パターンかよ!」と(実際にはエラリー・クイーンパターンなのでしょうが)内心思っていましたが、これは読後に考えてみると意味があったような気がしています。
その「辻村深月」というキャラクターですが、レビューを読み漁ったところどうも不評のようです。
「自分勝手でむかつく」だとか「精神的に弱すぎる」だとか。
でも不思議と自分はそういった感想は持ちませんでした。
むしろ同情的な目線で彼女を見ていました。
この物語はある意味では「辻村深月」を中心に廻っていると言っても過言ではないので、このキャラが好きじゃない人にはなかなか辛いかも知れません。
それと、充だけ妙に驚かされたり残酷な目にあっていて可哀そうでした。
読了後もそれが何故だったのかよく分かりません。
恐らく彼が「最初」だったので読者にインパクトを与えたかったのかも知れません。
読了後はネタバレも含めてあれこれ書きたい気持ちがあったのですが、読了後から時間が経って熱が冷めてしまいました。
でも面白い作品でした。
漫画版も2巻まで読んだのですが、こっちは微妙。
特に昭彦がイメージと違い過ぎる。
是非映像化営して欲しい。
自分がもっと若い時に読んでいたらもっと印象的だったろうし、何度も読みたいと思える作品だったかも知れません。
それでも自分は好きな作品でした。
この作品に登場した人物は別の短編集で登場するようですね。
機会があればそちらも読んでみたいです。
それよりも、この作品を皮切りに他の辻村深月作品も今後読んでみたいと思います。
『冷たい校舎の時は止まる』
★★★★☆ / (4点)