この作品を買ったのは結構前になります。
辻村深月の作品を読むのは年始早々に読んだ『冷たい校舎の時は止まる』以来の2作品目です。
その「冷たい~」を読了後の話ですが、にテレビをつけたら「私の本棚の紹介」みたいな特集がやっていたんですよね(今年の1月の話です)。
で、それがアイドルの何某さん(坂道グループの誰かだったと思うんですけど、詳しくないので分からないですし、全く覚えていないです・・・)が本作を紹介していて。
それに芸人のさまぁ~ずの三村さんも本作を読んだと言っていて。
それで気になってすぐに本作を買ったんですが、読むのはこのタイミングになってしまいました。
「冷たい~」は等身大の高校生が描かれていましたが、本作での登場人物は30代初頭の女性たちが中心人物になります。
自分も年齢的には彼女たちと同世代ということになるのですが、飽くまでも描かれているのは女性のコミュニティの話でありまして、それが中々に面白かった。
巻末の解説の冒頭文なんて、まさにそんなことを思いながら読みました!とちょっと嬉しくなりました。
あらすじはここには書きませんが、仲が良かった母娘が何故か急に尊属殺をしてしまう描写から物語は始まります。
一体なぜ?、そして娘は何処へ?
ということを探るミステリーとなっています。
本作のキーワードを幾つか挙げると、先ほど挙げた「30代初頭の女性コミュニティ」と「赤ちゃんポスト」、そして「母親と娘」ということになると思います。
特に自分が感じた本作のテーマは一番最後の「母親と娘」です。
女性コミュニティの話が序盤から終盤に至るまで描かれていますが、自分の心に最も響いたのは「母親と娘」の関係性であり、また別の意味もあります。
このテーマに沿って言えば、結末のシーンは同年代ということが重なって、重く響いてきました。
綺麗とは言えないけど物凄く意味のある余韻が残る見事な着地だったと思っています。
ただそのテーマが意味を成してくるのは主に終盤の話で、先ほども述べた通り殆どが女性コミュニティの話です。
正確には頭に「田舎の」と付けた方が良いのかも知れませんが、如何せん女性同士の友情とその後というものの経過が分かるような分からないような、というところなのですが、どうなんでしょう。
男同士ならこうはならないなと思う事の連続で、だからこそ恐怖もあり面白くもありました。
というか、主人公のみずほの周りには何故か癖のある人物しか居ないというのが不思議でした。
みずほ本人は割と良そうなさばさばしていて容量の良さそうな印象なのに、何故このコミュニティに?と最初は思っていましたが、でも狭いコミュニティだとこういう事もあるんでしょうね。
ただ納得しても慣れることは無く、みずほの旦那の啓太が出てくるとちょっと安心するし一番共感できるのはやっぱり啓太でした。
あとネタバレになるので詳しく書けないんですが、終盤ではアニメのキャラみたいな登場人物が突如出てきて、ちょっと和みました。
この人が居なかったらもっと重い話になっていたことでしょう。
この辺りのコミュニティの話は巻末の解説によく書かれているので、そこまでちゃんと読むともっと面白いかと思います。
この解説は本当に芯を喰っていると思いました。
あと「冷たい~」もそうでしたけど、本作も物凄く読み易かった。
まず登場人物の造形がしっかりしているので、登場人物が増えてきても混乱することがなかった。
何となくですけど、こういう所は女性作家の方が上手なイメージがあります。
辻村深月も例外に漏れず、登場人物だけではなく描写が分かり易く描かれていて良かった。
それと、これは好みがあるかも知れませんが文章も読み易かったです。
まぁ一番の読み易い要因は「面白い」という事なんですけどね。
ということで、本作もメチャクチャ面白かったです。
読了して時間が経ちますが余韻は今も残っています。
ドラマ化しても良いくらいの作品じゃんと思いましたが、実は頓挫していたんですね。
そういえばそんなニュースみたなと後から思い出しました。
これは三村さんもネタバレしていましたが、タイトルにはちゃんと意味があります。
それは自分の予想を一段上回るものでした。
そういうこともあって、自分には終盤の展開は重く響いてきました。
こういう余韻の残る作品はきっと忘れないと思います。
かつて読んだ東野圭吾の『白夜行』がいつまでも忘れられないように。
(白夜行ほどではないにしても)
粗を探せば見つかるのかも知れませんが、本当に面白いと思う作品はそんな事が微塵も気にならなくなってしまいますね。
そういう圧倒的な物語があった気がします。
そんな事を思った、素晴らしい作品でした。
『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』
★★★★★ / (5点)