ジョルジュ・シムノンの作品を読むのは恐らく初めてだと思います。
同じくメグレ警視シリーズを読むのも初めてです。
メグレ警視はいずれ読みたいと思っていたシリーズの一つで、今年の2月に本作の新訳版が出たのを知って読もうと決めていました。
さて、そんな初めてのメグレ警視。
メグレ警部と言えば、名探偵コナンに登場する目暮警部が思い起こされますが、目暮警部と同じような巨漢の持ち主のようです。
しかしその有能さは目暮警部とは大きく異なります。
モチーフ元は偉大な警察官なのに、「本当に同じ警察官?」と思ってしまうほど原作では目暮警部が殆ど役に立っていないので仕方ないことでしょう(キャラとしては好きですけどね)。
さて、そんなメグレ警視が活躍する本作です。
身元不明の女性が遺体で発見されるところから物語は幕を開けます。
この身元不明の女性の正体を突き止めるところか始まり、犯行の手口や犯人、そして動機を探っていくことになるのですが・・・。
本作の面白いところは殆どが女性が生前どんな人物だったのか?という所をひたすら追求していくことで、女性の取った行動を想像しながら犯人を追い詰めていくという捜査のプロセスにあると思います。
はっきり言って本作には派手な仕掛けは一切なく、ひたすら地道な捜査を続けていく様子が描かれているので、一見すると物足りなく感じるかもしれません。
しかし、自分はここまで地道な捜査の過程を辿る推理小説というものは過去あまり読んだ記憶が無く、更には様々な証言を元に被害者とひたすら向き合うことで人物像を蘇らせるという手法はポアロと似ている感じがして、新鮮かつ好みの作品でした。
しかも被害者はどちらかと言えば同情しにくいタイプの女性像として描かれていて(飽くまで自分はそう感じました)、被害者の境遇から正義感を引き起こすという小説らしい書き方をしていない点が逆に良かったです。
唯一・・・と言っていいかは分からないのですが、本作というか本シリーズ通して登場するのかも知れませんが、捜査に携わる一人としてロニョン刑事という警察官が登場します。
このロニョン刑事はとても優秀な刑事なのですが、物凄くネガティブな思考の持ち主で(だけどもそれがプラスに作用することもあるという)あり、メグレ警視もロニョン刑事に対してはひたすら慎重に接していくことになります。
まるで昨今のコンプライアンスに縛られた上司と部下の関係性を見るようです。
で、このロニョン刑事がどれほど優秀かと言えば、地道な聞き込みだけでメグレ警視の捜査スピードを上回る勢いで殆ど正しい捜査の道を辿ります。
メグレ警視の方は司法警察局に情報が集まってきますので、足を使わずに情報を掴み、すれすれでロニョンより先回りした捜査を行うことが出来ました。
しかし、終盤でロニョンが何か真相に繋がる手がかりを得たのではないか?と周りが躍起になってロニョンを探すことになります。
ロニョンは手柄を立てようと情報共有はしません。
メグレ警視も焦ってきます。(ロニョンに先を越されることに関して焦っているのではないと強調されているが・・・)
さて、どうなることか。
結論を書いてしまうと、最終的に真相を掴み取ることが出来たのはメグレ警視の方です。
それは何故か。
メグレ警視がロニョンが掴んだと思われる「事実」を手に入れたからではありません。
それが、メグレ警視がひたすら被害者と向き合う事で育んだ<想像力>のおかげなのです。
<想像力>と言いましたが、事実に基づいた想像なので、<推理力>と言っても良いかもしれません。
ただ自分には<想像力>の方がしっくり来ます。
この<想像力>がメグレ警視とロニョン刑事の明暗を分けることになるのです。
この絶妙な結末を迎えるための地道なプロセスをメグレ警視と共に味わうことが本作の醍醐味ではないでしょうか。
ちなみにこれは知らなかったんですが、この作品は今年新たに映画化された物が日本で公開されたそうです。
だから新訳版が出たのかな。
ということで、自分は本作はとても面白いと思いました。
他のメグレ警視シリーズも読んでみたいと思います。
『メグレと若い女の死』
★★★★☆ / (4点)