「2」を読んだのがいつだったかもう覚えていませんが、久々になったのは確かだと思います。
「1」はとても面白くて強く印象に残っているんですが、「2」はちょっとイマイチかなという感想だったはずなんですよね。
でもその割には「2」も印象に残っている話が多く、やはり古典的傑作というのはその場しのぎの感想など役に立たず、知らぬ間に心の奥底に印象を植え付けてくるほどの「何か」があるのかも知れません。
どちらにしても、このシリーズはミステリー好きなら一読の価値が間違いなくあると思います。
さて今回は「3」ということで、実は自分がこのシリーズを読みたいと思ったきっかけになった作品が収録されていたので楽しみにしておりました。
どの物語かと言えば、それは下記の作品です。
・「茶の葉」 / E・ジェンプスン & R・ユーステス
この作品が読みたいと思ったのにはきっかけになった作品があります。
それは歌野晶午の『密室殺人ゲーム王手飛車取り』です。
wakuwaku-mystery.hatenablog.com
この作品の中に「茶の葉」に関する言及がある場面があり、自分はその時作品名すら聞いた事もありませんでした。
『密室殺人ゲーム~』では推理小説好き達が集まって事件の解釈をチャットを通して匿名で解き明かしていく様子が描かれていますが、この部分の会話を読んで「推理小説好きなら古典はやっぱり押さえておかないとな・・・」と思ったのが強く印象に残っています。
それもあって、この「茶の葉」は是非とも読んでおきたい作品の一つでした。
ということで「茶の葉」の話に戻ります。
浴場が舞台になるというのは『密室殺人ゲーム~』の件で覚えていました。
この話の論点は主に凶器は何処に?ということです。
そして解答は何となく想像がつきました。
ミステリーとしてはそこが肝心の部分なんでしょうが、それが何となく分かってしまっても十分楽しめました。
扉裏の紹介文にもある通り、「奇抜なトリック」「密室殺人」「女性の探偵役」という3つの特徴を兼ね備えた物語ですが、自分には特に最後の「女性の探偵役」という部分が面白く感じました。
知的な話し方で、感情的になってもおかしくない立場にも関わらず冷静に、そして真実に向き合うという姿勢がとてもよかったです。
また被害者と加害者の関係性も面白かったです。
「茶の葉」のことはどうしても残しておきたいと思っていましたが、ここからはその他の作品について。
・「三死人」 / イーデン・フィルポッツ
巻末の解説によれば、この作者の作品は編纂するにあたって外せないだろうとのこと。
巻末に紹介されている作品で言えば「赤毛のレドメイン家」は作品名はよく見ますね。
でも自分はこの作者の作品を読むのは初めてです。
本書に収められている中では最も長い作品です。
誰の証言も真実を語っていそうに見えるが、そうだとすると謎は深まるばかり・・・。
いや、そうじゃなかったのです。
証言は殆ど正しかった。殆どは。
足りなかったのは自分の想像力でした。
面白かったです。
・「堕天使の冒険」 / パーシヴァル・ワイルド
これも面白かったです。
トランプ賭博を巡る犯罪の物語なんですが、この話は実話に基づいているそうです。
最初は探偵役を気取って鼻を高くしていた準主人公が、徐々に鼻を折られていくのはある意味気持ち良いです。
ただし真実は闇の中に埋まる一方で、裏扉の紹介文にある通り「奇抜なトリック」と「奇妙な味」を味わえるなかなか印象深い話でした。
・「夜鶯荘」 / アガサ・クリスティ
クリスティの作品ですが、この話は読んだことがありませんでした。
「夜鶯」って何だろう?と思って調べてみると「ナイチンゲール」とかって出てきたのでますます分からなくなってしまったんですが、「ナイチンゲール」という鳥の名前みたいですね。日本名が「夜鶯」になるということか。
別名が「サヨナキドリ」というそうで、巻末の解説によれば原題が「nightingale cottage」ではなく「philomel cottage」となっているのはある意味を含ませたかったのではないかと言うことです。
「クリスティの作品なら読み慣れてるから結末も予想がつきますよ~」なんて高をくくっていたら、見事に騙されました。
クリスティ先生、申し訳ありませんでした。脱帽です。
この作品もとても面白かったです。
この作品はあまり印象に残っていません。
捜査が難航しそうな兆候が見えますが、ある人物が浮かび上がってきた途端に全てが回収されていく様子はリアリティがあるなぁとは思いました。
・「イギリス製濾過機」 / C・Eベックホファー・ロバーツ
この話も面白かったんですが、殺害方法の過程は分かったんだけど、でも想像するのが難しかった・・・というか不可能でした。
殺害方法もそうなんですが、物語の結末もある意味クレイジーで面白かった。
・「殺人者」 / アーネスト・ヘミングウェイ
ヘミングウェイの作品名だけは沢山しっていますが、実際に読むのは初めて。
誰かのレビューにもありましたが、「殺人者」というより「殺し屋」というタイトルのがしっくりくるハードボイルドなお話です。
自分、この物語をきちんと理解出来ていないかもしれません。
結末をどう解釈した良いのか、イマイチ良く分かっていません。
・「窓のふくろう」 / G・D・H & M・I・コール
収録作品中でもっとも本格ミステリーとして完成しているのはこの作品だったと思います。
ロジカルな考え方が面白かったですけど、逆に派手さには欠けて印象には残りづらいかも。
・「完全犯罪」 / ペン・レイ・レドマン
エラリー・クイーン曰く「推理小説で終わる推理小説」ということです。
この「完全犯罪」というタイトルが半分は皮肉っぽく聞こえますが・・・。
もし〇〇役がクレイジーだったらこういう展開もあり得るということで、ちょっと新鮮な展開でした。
ここから派生された作品があれば読んでみたいかも。
・「偶然の審判」 / アントニイ・バークリー
この著者の作品は『毒入りチョコレート事件』しか現在のところ読んだことありませんが、その『毒入りチョコレート事件』を短編にしたものです。
事件の経緯等は自分の記憶している限り『毒入りチョコレート事件』とほぼ同じで、結末も『毒入り~』で提示された解答の一つだったかと思います。
この「偶然の審判」だけで読んでも面白い・・・というかこっちの短編の方がスッキリしていて好きかも。
まぁ『毒入り~』の方は別の要素で有名な作品なので、それはそれで読む意義はあると思いますが。
ということで以上になります。
本書は「三死人」以外は大体が約30ページ前後の文量で、メチャクチャ読みやすかったです。
おかげで「ちょっとずつ読もう」と思っていたのが一気に読んでしまいました。
巻末の解説まで含めて、いや~面白かったですね!
『世界推理短編傑作集3【新版】』
★★★★☆ / (4点)