前作の『瑠璃城』が個人的にはイマイチだったこともあり、少し間が空いてしまったような気がします。
本作は書店で手に入りやすいこともあり、結局紙媒体で読むことにしました。
さてそんな本作はこれまでの『クロック城』と『瑠璃城』と比べると、ファンタジー要素は薄めで本格推理要素が大分濃くなっていると思います。
正直驚きました。
むしろ「今回はどんなトンデモ設定が?」と期待していた部分もあったので、そういう意味では肩透かしを喰らった感じですが、それは良い意味で跳ね返ってきました。
本作はそんなこれまでの作品を逆手に取ったという意味では、前2作が伏線として作用している部分は間違いなくあると思うので、『クロック城』と『瑠璃城』を読んでから本作を読む方が面白いかも知れません。
それと、本作では随所にアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』の話が出てきます。
それ以外にも著名な推理小説の話が細かく出てきますが、それらは知らなくても楽しめると思います。
しかし、『そして誰もいなくなった』だけは読んでおいた方が良いかも知れない。
もし『そして~』がどんな内容の作品か知っていれば、小説を読む必要は無いかも知れません。
もし全く知らないようであれば、『そして誰もいなくなった』だけは読んでおいた方が良いでしょう。
でも『そして~』に関する見聞が一切ない方が本作を読むと、唯一無二の楽しみが味わえるのかも知れませんが・・・。
でも個人的にはやっぱり『そして誰もいなくなった』は読んだうえで本作に挑む方をオススメします。
ということで、私の本作に対する感想ですが、見事に騙されました。
というか、最初に読了した時は何が何だか理解出来ませんでした。
読了後にネットで本作に対する解説・考察を読み漁って、やっと「そういう事だったのか!」と納得出来ました。
ここまでの<「城」シリーズ>の中では間違いなく一番面白かったです。
ただ、傑作まではいかないですね。
作者は「物理の北山」と言われる程「物理トリック」には拘りがあるようですが、本作ではその要素は薄めではないかと思います。
というかここまでの<「城」シリーズ>から、特に物理トリックが優れているとは正直個人的には思っていなかったので、北山先生にそんな二つ名があるとは意外でした。
本作も密室トリックが仕掛けられていますが、個人的には微妙な解答でした。
特に最初の事件の方はその正解と言われている方法が上手くいくシーンが想像出来ませんでした。
もっとも、これは自分の理解力と想像力が不足しているだけかも知れませんが。
それで、今回は以下以降はネタバレあり(若干)でいきたいと思います。
直接的なネタバレは無いようにします。
なので先にネタバレなしの余談を書いておきますが、先日北山先生がトリックを監修されているゲーム「ダンガンロンパV3」を初めてやりました。
ダンガンロンパシリーズは1・2はやっていましたが、V3はやっていなかったのでセールで安い時を狙いました。
メインストーリーはともかく、監修されていたトリックの方は結構面白かったですね。
こっちの方が「物理の北山」という呼び名が相応しい気がします。
それと本作の登場人物は『不思議な国のアリス』と『鏡の国のアリス』をもじった名前になっているらしいですね。
全然知らなかった。
自分はディズニー作品くらいでしか分かりませんが、これらを読んでるとより楽しめそうですね。
ということで・・・
ここからネタバレあり!!
本作は叙述トリックが仕込まれていた訳ですが、やはり色々なレビューや解説サイト等でも本作が「フェアか?アンフェアか?」という所で意見が分かれていますね。
自分はフェアでもアンフェアでも自分が「面白い!」と思えばどんな手口で騙されても良いと思っていますが、そういった「面白ければ全て良し」という考えは一度捨てて、本作が騙し方としてフェアかアンフェアか問われれば、ギリギリでアンフェアのような気がします。
それは、「そうすると、結局物語として成り立ってないのでは?」という疑問がどうしても拭えないからです。
異様なまでに一人だけ疑われない。
いや、正確にはそういった件は確かにあったのです。
でもそんな疑いが無かったかのようにまた進んでしまうので、「何故誰も疑わない?」という疑問がどうしても残ります。
特に展開が煮詰まってきた後半の方になればなるほど、余計にその疑問が浮かんでしまう気がするのです。
そしてそれを踏まえて個人的に思う事は、「だとしたら皆あっさり殺され過ぎでは?」ということです。
まぁこれを言ったら元も子もないんですが(笑)
でも物語を振り返ってみると、この状況でそんな真犯人に殺されても仕方なかったろうなと納得出来るのは、自分は二人だけです。
それ以外の犯行については、真犯人にそんな実行力があるとは個人的には思えないのですが・・・。
まぁ未知数の多い犯人なので何とも言えませんが。
ただ、これらの感想は「フェアか?アンフェアか?」という疑問に答えるとすると「アンフェアかもね」ということになるだけで、「作品として面白いかどうか?」という視点で本作を見れば、自分は十分面白かったと言えると思います。
それが傑作級の面白さでなかったとしても、やっぱりそれなりに夢中になって読むことは出来ましたし、本作では余計な設定が省略されているので、作中に描かれている特殊で不穏な状況は堪能することが出来ました。
また、読了後に解説サイト・考察サイトを色々巡って色々な発見が出来た事も面白かったです。
この読了後に考察を巡らす事が出来るのも、本作の魅力であると考えます。
また、これまでの<「城」シリーズ>を逆手に取り、発想の逆転をして読者を欺いたのは見事だったと思います。
ということで、<「城」シリーズ>では一番有名だと思われる本作も読めたので、いよいよ一番楽しみにしている『ギロチン城』を残すのみとなりました。
年内中には読みたいと思っています。
『「アリス・ミラー城」殺人事件』
★★★(★)☆ / (3.5点)