本書を読もうと思ったきっかけはドラマ『古畑任三郎』シリーズです。
先月に再放送がやっていた古畑任三郎シリーズですが、その古畑任三郎シリーズの中に草刈正雄がゲスト回で本書と同じく「ゲームの達人」と題された回があります。
この「ゲームの達人」自体は先日までやっていた再放送では放送されていなかったと思いますが、その再放送をきっかけに「そういえば、この本読みたいと思ってたんだよな」ということを思い出し、すぐに探しました。
今回は手っ取り早く色々な書店の在庫検索を使いましたが、ジュンク堂の池袋本店と札幌店にのみ在庫があることを確認出来たため、すぐさま池袋へ向かいました。
新書なんて買ったの小学生の時に読んだハリー・ポッター以来かも。
ジュンク堂の池袋本店もそうですが、池袋自体が久々に行ったので本当は少しうろつきたかったんですが、大雨が降ってきたためすぐに帰路へと・・・。
またしばらく行かないだろうな、池袋。
ということで本書です。
古畑任三郎の「ゲームの達人」の回とは全く関係性が無いように思われます。
古畑の方は言葉通りの意味で「ゲームの達人」と名付けている気がします。
ところが本書での「ゲームの達人」というのは色々な意味が含まれているような気がします。
本書は昔映画?だかドラマ?だかが流行ったようで、結構知られている作品のようですね。
自分は全く知りませんでした。
でも、この作品は凄く面白かったです。
冒頭のプロローグを置いて、過去からプロローグまでを描く形式となっております。
最初はジェミーが好青年だった頃から物語が始まります。
時代は1880年代。
ジェミーは貧しい生活に嫌気がさし、ダイヤモンドを掘り当てることで一攫千金を夢見て祖国スコットランドを飛び出て南アフリカを目指します。
スコットランドを飛び出す前に、唯一背中を押してくれた母親から母親のへそくりを託されるシーンは本書の数少ない感動する場面です。
ここからジェミーの波乱万丈な物語が始まります。
この南アフリカの目的地に着くまでがまた道中色々ある訳ですが、何とか辿り着きます。
そこでダイヤモンドを掘る前の準備段階でまた色々起きますが、何とか旅に出る準備が整います。
そして何と、本当にダイヤモンドを掘り当ててしまうのです。
しかし、これで夢見た生活を手に入れるかと思いきや、そうは問屋が卸しません。
実はジェミーは騙されており、今度は夢が失望へ、そして絶望に変わり復讐を心に誓います。
そう、ここからが本書の長い長いお話の幕開けとなるのです。
ジェミーの復讐が幾人もの運命を狂わし、ジェミー本人の運命も狂わせてしまいます。
そしてジェミー本人だけに留まらず、その影響はジェミーの夫人、子供、そして孫たちまでも巻き込む壮大な展開へと発展する大河ドラマとなります。
最初はジェミーの視点で物語は進みますが、その後は色々な人物の視点で物語が進むことになります。
ジェミー一族の発展の物語でもあり、悲劇の物語でもあり、滑稽な物語でもあります。
上巻と下巻とに分けて感想を書きたいと思いますが、まず上巻。
上巻は殆どがジェミーの視点で進みます。
先に書いた通り、最初は好青年だったジェミーが復讐の道を歩むことになる訳ですが、そのきっかけとなる出来事は確かに残酷なものです。
とは言っても、今読むと「これは騙される方が多少悪いのでは?」と思わなくもない。
ただ騙した方は全く悪びれる素振りもなく、結局死ぬまで「俺はわるくねぇ」というスタンスに見えたので、ジェミーの勝利はある意味では「因果応報」という事で納得出来そうなものではありました。
ただジェミーの復讐は頭でっかちなもので、対象を広げ過ぎました。
また、復讐をきっかけにジェミーは人としての大事な部分を失くしてしまいます。
そのことが読者側としてはいたたまれない気持ちにさせられます。
復讐を成し遂げた後もジェミーの話は少し続きます。
そして上巻の最後の方では、ジェミーの娘にあたるケイトが登場します。
このケイトはプロローグにも登場し、下巻でも重要な人物として登場します。
そう、本書はジェミーの話を除けば殆どがケイトの話で構成されていると言えるのです。
そして下巻。
ジェミーが創業した会社は大発展を遂げ、それを継いだ夫人もマーガレットも逝去し、ついにケイトの時代が到来します。
ケイトが継ぐまでもケイトに纏わる話が大量に出てきますが、ジェミーの最初の頃と違いケイトに感情移入することは大半の人には不可能でしょう。
ケイトは性格で言えば、ジェミーの野心の部分と復讐後の傍若無人さという悪い部分だけを受け継いだような人物です。
それが、ある意味では「強い」とも言えますがある意味では「愚か」とも言えると思います。
ジェミーとケイトの共通点は「何が幸せか?」ということを見失っていることではないでしょうか。
ジェミーは晩年にそれを取り戻りつつあったように思いますが、それも指の隙間から零れ落ちてしまいます。
そして、ケイトに至っては理解すら出来ていません。
そういった点で、本書にはクリスティの『春にして君を離れ』に通ずる部分があるよう感じられます。
実際本書を読んでいて何度も脳裏に過ぎりました。
そんなケイトも唯一の好きな人と無事結婚して、息子が生まれます。
この息子のトニーの物語も実に壮絶なものとなりますが、結局はケイトの手のひらで踊ろされるような形となります。
でも、考え方によってはトニーは幸せな道をまだ歩めたような気もするんですが・・・。
ドミニクという女性が出てきますが、この女がまぁ酷い。
「こいつに復讐しろ!」と思ってしまったほどに。
結局何もありませんでしたが。
ジェミー一族の話はトニーで終わりません。
今度はケイトの孫にあたる双子が登場します。
イヴとアレクサンドラという女性の双子で、二人とも美人な双子です。
しかしイヴはアレクサンドラの存在を邪魔だと思っており、一族の莫大な遺産を引き継ぐのは自分一人で良いと感がています。
一方のアレクサンドラは「本当にケイトの孫?」と思えるほどの純真な子で、復讐心を宿す前のジェミーのような存在です。
でも実は秘めた行動力があることがあるエピソードから明らかになります。
ただアレクサンドラに関しては本当に良い子です。
故にケイトからはあまり認められていないのですが・・・。
この双子のうち、イヴの方がトラブルメーカーで、ケイトの孫らしく天性の頭の良さで色々な悪行をバレずに行っていきますが(殺人未遂も含む)、色々あってついにケイトにバレます。
ここからが不思議なものなのですが、あまり好きじゃなかったケイトに対して「頑張れ!イヴに負けるな!」と思ったり、逆に「イブ頑張れ!」と思う時もあったり、好きじゃない人同士での謀というのはこんなにも心移るものなかと、ある意味で感心、ある意味で情けなくもなりました。
でも面白いんですよね。
悪行がバレてからのイヴの行動も悪巧みに悪巧みを重ねていき、結局どうなるのか・・・。
全ては因果応報ということだと自分は思います。
ということでジェットコースターのような本書を、今回は紹介しつつ感想を書き綴ってみました。
最後にケイトは一族の事を振り返り、苦い思いをしている様子が見て取れますが、飽くまでもケイトの視点から見るとそうなるだけで、一部の人だけですがそれほど悪い人生が待っているようには思えません。
ジェミーが最初の一攫千金を夢見た気持ちのまま金持ちになっていればどうなったのか。
一族はもっと早く破滅していたかも知れませんし、あるいは・・・。
なんて感慨にふけることも忘れてしまうくらい、後半は悪巧みだらけです。
でも、それが面白い。
人生の教訓にしたい本というよりは、単純に娯楽として楽しむにはとっておきの作品だと思います。
これはまた読みたくなるかも。
新超訳版ということで、翻訳にもこだわっているみたいです。
原本にはない描写を入れたり工夫されているようで、とても読み易かったです。
内容もとても面白く、最後まで飽きずに一気に読めました。
そうそう、本書を読んでいて頭に過ぎった作品を3つほど紹介します。
・『春にして君を離れ』 / アガサ・クリスティ
・『そしてミランダを殺す』 / ピーター・スワンソン
・『ジョジョの奇妙な冒険』(第4部 「山岸由花子はシンデレラに憧れる」) / 荒木飛呂彦
特に『そしてミランダを殺す』は構成が似ていて、また読みたくなりました。
あとは古畑任三郎ですね。
本書の内容とは結局全く関係ありませんでしたが。
古畑任三郎シリーズの事も機会があれば書きたいですね。
大好きなシリーズですので。
最後に、そんな古畑任三郎のゲームの達人における台詞を紹介して締めたいと思います。
「しかし人生はゲームじゃない。遊び半分でやるとエラい事になります。」 by 古畑任三郎
『ゲームの達人』
★★★★(★) / (4.5点)