長編のホームズシリーズでは最後の作品です。
中学生の時に一通り読んだはずですが、この作品に関しても全く覚えていませんでした。
本作は『緋色の研究』と同じような構成になっています。
前半はホームズの活躍する現代の話、後半はタイトルの「恐怖の谷」を舞台とする過去の話。
あとがきの解説によれば、後半はホームズが全く出てこないので不評だったとか。
でも自分は長編の中だったら『緋色の研究』か本作で迷いますが、上位に来るほど好きですね。
前半でホームズが挑む殺人事件では、いつも通り警察が大して気にも留めない「手がかり」からホームズは推理の糸口を掴みます。
そういえば本作ではモリアーティ教授の話が度々出てきますが、これって全体の流れで見ると筋が通ってるのかな?
正直、本作にモリアーティ教授の名を出した事は余計だったと自分は思います。
そんな事しなくても本作の「仕掛け」は十分に面白かったですから。
ドイル自身も自信があったようですね。
でも自分が面白いと思ったのは実は後半の部分だったり。
後半は急にハードボイルドなストーリー展開に変わりますが、ドラマ的にはチープかも知れませんが、先の気になる物語だったのは前半より後半でした。
ある意味ではモリアーティ教授を彷彿とさせるような犯罪組織が登場しますが、モリアーティ教授のそれとは全く異なります。
ひたすら力で押し通すような、モリアーティ教授とは異なる暴力の振るい方を使う組織です。
結局この後半の物語が前半に繋がるという「輪」に成る展開になっていますが、『緋色の研究』も同じような感じでしたよね。
後半を読んでから前半を振り返ると、その長い長い戦いの決着とその果てに、なんだか虚無感に似た気持ちになります。
前半にも後半にも驚くような仕掛けがあって、面白かったですね。
尤も、後半よりも前半の仕掛けについては怪しむ読者は絶対居るでしょうが。
物語的にも面白かったです。
ということで、自分は好きな作品でした。
『恐怖の谷』 / ★★★☆☆(3点)