こちらも読了してか一か月くらい経ってしまいました。
書店で『慟哭』と一緒に期間限定のプレミアムカバーで平積みされていたのが目に留まりました。
本作を知ったのは実は映画が先になります。
と言っても、自分は映画の方を観ておりません。
以前、M-ON!Pressで連載していた「みんなの映画部」という企画がありまして、それを読んだのを覚えていました。
ただ、その連載の中で語られていた感想とは大分乖離した内容という印象でした。
作品の構成としては以前紹介した恩田陸の『ユージニア』とも似ていますね。
どちらが先かよく知りませんが。
とある一家殺人事件を様々な人たちの視点から語ってもらいながら進行していく作品です。
『ユージニア』は様々な人たちが語る内容の一体どこに真相が?という感覚で読んでいましたが、本作はそれとは異なります。
『ユージニア』と異なり最終的に一家殺人事件のあらましは大体判明することになる訳ですが、『愚行録』の登場人物たちが語る内容は殺人事件の事とは殆どが関係ない事ばかりで、殺された被害者夫婦が一体どういう人たちだったのか?ということが様々な被害者夫婦の関係者の視点から徐々に分かってくることになります。
実はその関係者の中に重要な人物が紛れていたりもするのですが、「まさか!」という衝撃はありつつも、何故かその人物の事は印象に残っていました。
これは貫井徳郎がそう印象付けるために描いたのか、それとも単に自分の中で何かが引っ掛かっただけなのか、それはよく分かりません。
そして恐らく本作で大事になるのは一家殺人事件の真相ではなく、一方的に語られる被害者家族と被害者について語る関係者、そしてそこで浮かび上がってくる両者の人間性なんだと思います。
面白かったのは男と女で語る内容が微妙にズレていることでした。
それと、そんな様々な人間たちの人間性が浮かび上がってくる本作のタイトルが「愚行録」だということ。
ある意味、読後に自分の中に残るものは何ひとつ無いのかも知れません。
でも、それがこの作品の真骨頂と言えるかも知れませんね。
映画版はどんな物なんでしょう。
あまり観る気にはなれないな。
余談ですが、作者はてっきり慶応卒かと思ったら早稲田卒なんですね。
『愚行録』
★★★☆☆ / (3点)