自分にとっては満を持しての1冊です。
そもそもはこの1冊が読みたくて、読むなら『月光ゲーム』から、
『月光ゲーム』を読むなら『Xの悲劇』から始まる4部作を読んでから、
そういった順序を踏んでの、ついに到達した作品です。
そんな個人的な期待値が高い今作は、前作『孤島パズル』を踏まえてのスタートとなります。
マリアが突如失踪、という展開はちょっと意外でした。
しかしそのマリア、今作ではちょっと好きになれませんでした。
ちょっと我儘すぎる印象で、舞台となる芸術村から理由も言わずに帰りたくないと親を突き返したかと思えば、事件が起こると一刻も早く帰りたいと心の中で呟くなど、前作の傷が癒えていないから、事件が起こった村に留まるのは思い起こすものがあるから、といった事情を差し引いても「お前が言うな」感が否めませんでした。
しかし、今回も我らが名探偵・江神二郎の引き立て役としては抜群の存在だったのではないでしょうか。
今作での江神は今まで以上に神がかっていました。
さて、そんなマリア・江神ペアとはとある事情から別行動となったアリスご一行は、江神たちとは分断された別の場所で、別の事件に巻き込まれることになります。
この分断された全く異なる場所で起きた事件が、果たしてどういう結末に向かうのか・・・というところが本作の醍醐味です。
しかもアリス側には名探偵の江神は居ない訳で・・・。
そこは江神とマリアを除いた推理研3人が立ち向かいます・
(今振り返ってみると、織田はあまり活躍してない気が・・・)
更に今作の特徴は「読者への挑戦状」が3回挟まれていることです。
この挑戦状、それぞれの時点でのフーダニットに挑戦して行くわけですが・・・
第1・第2は割と簡単に当てられました。
しかし第3はダメでした。
この第3については「やられた!」という感じです。
犯人がどうのこうのは、言われてみれば・・・よく考えれば分かったのに・・・!という悔しさがありました。
それ以上にこの事件の裏に隠された真実については到底達し得ていなかったので、
この事件の真相が明らかになったときは物凄くわくわくしました。
そもそも第1・第2が分かったところで、それぞれの事件の謎はまだ全然残っていましたからね・・・。
ただ一つケチを付けたいのは、最後の最後で明らかになる犯人の追い込み方がイマイチだったかなと。
論理的に江神と犯人がバトルを仕掛けていきますが、決定打がちょっと弱いような。
そんな印象です。
しかしながら、約700ページに及ぶ本編は飽きずに最後まで読めますし、舞台も十分魅力を引き出す設定となっています。
また登場人物は言ってみれば変人が多く、誰が犯人でもおかしくない人物設定がより推理を搔き立てます。
ちなみに話の中で本筋の内容に絡めめてヒッチコックの話が出てきますが、
偶然その作品については読んでいたため(実際に作品名は出てきませんが)、
ニヤリとすることが出来ました。
そもそもこの有栖川先生の作品は、推理小説好きの人たちがニヤリと出来るような要素が散りばめられているため、玄人が読むと小ネタが豊富な作品のように思います。
そういう意味では、自分なんかはまた色々と読み漁ってから戻ってきたいくらいです。
そしてこの学生アリスシリーズですが、今作『双頭の悪魔』から次作の『女王国の城』までは15年の時を経て刊行されています。
このまますぐに『女王国の城』突入しても良いのですが、ここは刊行当時と同じくらいとは言わずとも、少し間を開けて次作にかかりたいと思います。
満を持しての『双頭の悪魔』、十分面白かったです!
『双頭の悪魔』
★★★★☆/(4点)