この本を読むきっかけになったのは『サタデーナイトフィーバー』でした。
以前『サタデーナイトフィーバー』を観た際に感想を書きましたが、その後に色々と映画について感想やら豆知識やらを調べていました。
そうした時にとある記事が引っかかりました。
それがこれです。
これを読んだのと、ブルックリンという舞台に魅かれて読むことにしました。
この表紙とタイトルがなかなか面白そうに思えたのと、このタイミングでこういったタイトルの本に巡り合うのが面白いと感じたからです。
実際読んでみると、読む前に想像していた作品とは全く異なりました。
原題は『What No One Is Watching』ということですが、やっぱりこっちの原題の方がしっくり来ます。
内容ですが、ブルックリンが地元の黒人女性シドニーとブルックリンに引越してきた白人男性のセオの二人の視点が交互(必ずしも交互になってるとは言えませんが)に進んで行きます。
今思えば序盤にこの作品のテーマの殆どが詰まっていたと思うのですが、序盤で語られるのは白人と黒人の歴史と現状です。
こういったテーマをミステリーに落とし込むということで、あとがきにもありますが「白人至上主義」に対する批判を強烈にしたかったというような事を作者は述べているようです。
そういった事を踏まえつつも、序盤はなかなかに退屈でした。
先ほど述べた通り、読み終わって振り返ると序盤にテーマが凝縮されているのですが、申し訳ないですが初見の時はミステリーらしからぬ導入だった事もあり面白いと感じられませんでした。
ただ、読み終わってから序盤を読み返すと非常に興味深く読めます。
ミステリーらしからぬ導入と書きましたが、序盤から読者には得体の知れない違和感を持つと思います。
それはシドニーにもハオにも何か秘密を持っているに違いないと直感するからです。
この「得体の知れない秘密」というの何なのか、これが終盤まで分かりません。
それでいてただならない事が起きているような気がする感覚が、自分は『わたしを離さないで』(カズオ・イシグロ著)を読んだ時の感覚と似ていた気がします。
『わたしを離さないで』も自分はミステリー作品だと思って読んでいた訳ではないのですが、ミステリーに分類されることもあるようです。
『ブルックリンの死』も終盤に差し掛かるまでは、テーマは違えど同じような展開と言えるかも知れません。
終盤になると急展開になってくる(まぁ何となくこんな展開になる気はしていたのですが・・・)のですが、そうなってくると今度は『メイズ・ランナー』の世界観を思い出していました。
実際、展開としてはすごく似ていると思うんです。
ただ、本作ではテーマが明確になっている部分があります。
それが「ブルックリンの歴史」と「白人至上主義」です。
それらととある陰謀が次第に結びついていき、終盤のとんでもない展開へと繋がっていきます。
歴史ミステリーとも言えますし、スリラー小説とも言えると思います。
テーマとしてはざっくり言えばそんな感じなんですが、途中からの物語への没入感が凄かったです。
中盤からは夢中になって読んでしまいました。
疑心暗鬼のシドニーと明らかに異常なブルックリンの現状、次々と居なくなる地元住民、シドニーとセオの秘密、ブルックリンの秘密と陰謀めいた会話、あからさまにムカつく白人の登場、等々。
中盤は本当に面白かった。
それが終盤のとんでもない展開になって・・・。
ここが感想の分かれ目のような気がします。
自分は終盤の展開はあまり好きではありませんでしたが、作者のアリッサ・コールが伝えたかったテーマや現状を考えてみると、ああいう表現方法での着地というのは作者の強い決意の表れなのかなと。
それくらい伝えたいことが明確になっている作品だと思います。
それをミステリーでやっているのですから、この作品はやっぱり意義のある物と思います。
そんなテーマが礎となり、この奇妙な世界観を作り上げたのは凄いと思います。
世界観は奇妙ですが、作中で描かれていることは大なり小なり現実なのでしょう。
依然そういった風土は「風と共に去りぬ」とはいかない、そういった事を訴えた作者のメッセージが明確に伝わる社会派ミステリーだと自分は感じています。
そしてそういったテーマやメッセージ抜きに、物語に没入出来た久々の感覚を味わえて嬉しかったです。
余談?ですが、登場人物が覚えられなくて特に終盤は戻って読み返してしまいました。
『ブルックリンの死』
★★★★☆ / (4点)