ハヤカワ文庫以外でクリスティの作品を読むのは、昨年末に読んだ「オリエント急行」以来の2作目です。
ただし、初読でハヤカワ文庫以外を選択するのは初めてのパターンでした。
この新訳版が出るということは知っていたので、読んだことない自分にとっては丁度良いタイミングでした。
ハヤカワ文庫では『秘密機関』ですね。
という訳で自分にとって初めての「トミーとタペンス」シリーズです。
クリスティの冒険譚は何作かは読んでいますが、その最初の作品ということになりますね。
というか、読んでから知ったのですが本作が『スタイルズ荘の怪事件』に続くクリスティの生み出した2作目の作品が本作なんですね。
知らなかった。
そんなクリスティの初期の作品ということもあり、若干粗さも目立つ気がします。
タペンスの造形はすんなり入ってきたのですが、トミーの方はどうも捉えどころのない印象で「タペンス一人が主役で良くない?」と中盤くらいまでは思っていました。
ところが後半はむしろトミーが軸となって物語が展開していくことになり、「なるほどコンビものだ」と納得しました。
物語はとある機密文書を巡り、ミスター・ブラウンなる謎の人物を頂点とする秘密組織の謎を解明していく冒険譚となっています。
ジョージ・オーウェルの『1984年』を彷彿とさせる(流石に言い過ぎか。というか『秘密組織』の刊行の方が全然先)ミスター・ブラウンの匿名性と凶暴な側面を併せ持つ謎の人物ですが、その正体は割と簡単に看破できます。
ずっと疑っていましたし、怪しすぎました。
今思うとクリスティの読者への罠の仕掛け方は初期の頃から殆ど完成されていますね。
その罠の巧妙さがこの後どんどん増していく訳ですが。
本作はクリスティの作品に慣れていない人でも引っ掛かりにくいのでは?
ついでにジェーン・フィンの正体も「こいつじゃね?」と何となく気づいてました。
ただし、こちらはブラウン氏よりも輪をかけて直観頼りです。
最後の方は面白かったですけど、全体的な面白さとしてはいま一つなのかなというのが個人的な感想です。
ただトミーとタペンスは読者に人気というのは知っていましたが、その人気さの理由が本作でも分かったような気がします。
それだけでも読む価値のあった作品だったかなと。
この後もトミーとタペンスシリーズを読む進めて行くつもりです。
次はハヤカワ文庫版を読むことになるかなと思っていましたが、あとがきによれば次回作の『おしどり探偵』(創元推理文庫版では『二人で探偵を』)も新訳版が出る予定とのことですので、せっかくだから新訳版が出るまで待とうかなと思っています。
まだクリスティの作品で読んでいない作品は結構ありますので、そちらから読み進めて行こうかなと。
まだまだクリスティの世界にも楽しみは残っています。
『秘密組織』
★★★☆☆ (3点)