前作の『悪魔の報復』の原題が「The Devil to Pay」で「どうしてこういうタイトルなんだろう」と思っていましたが、本作の巻末にある解説でそれは誤った解釈であることを知りました。
実際に検索すれば分かりますが、「the devil to pay」で「後がこわい、後難」という意味になるそうで、本作の解説によるところでは「前途に横たわる大難事」という意味だそうです。
それならちょっと納得できる。
それを訳者が直訳してしまったのか、意図的なものなのか。
よく分かりませんが思わぬところで疑問が回収出来て良かったです。
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さて、『悪魔の報復』に続くハリウッド・シリーズ2作目になる『ハートの4』です。
自分がチェックした時は、文庫版の中古は2,000円以上が最安値だったはずなんですが、今見ると1,000円以下になってますね。
これなら文庫で買っても良かったんですが、今回は電子書籍での購読となりました。
前作『悪魔の報復』は個人的には好きな作品ではありましたが、それは思いのほかストーリーやキャラクター造形が良かったと思っただけで、ミステリーとしてはイマイチだったというのが正直なところです。
前作と比較すると、ミステリーとしては前作よりも良かったと感じたものの、逆にストーリーの方は前作程の魅力は感じられず、またキャラクターに関しても同じです。
前作で再三連絡を取ろうと試みていたブッチャーと本作では思いのほか簡単に対面することが出来ました。
相当難しく嫌な奴だろうと思っていたブッチャーですが、実際はそんなこともなく、むしろ真逆でエラリーとも直ぐに打ち解けます。
(会えなかったのには色々と誤解があったようです。)
このブッチャーが可哀想な人物で、優秀なので本作にも欠かせなくくらい絡んでくると思いきや、中盤以降は殆ど空気のような存在で、そのまま終盤を迎えます。
しかも存在感が薄いだけでなく、実は彼自身にもある「悲劇」が起こってしまい、酷い仕打ちを受けています。
今後ブッチャー君が出てくるようであれば、活躍の機会があらんことを・・・。
ブッチャーの話を置いておくとして、本作ではいよいろハリウッド内でのそれらしい人物が登場します。
名俳優と名女優、そしてそれぞれの息子と娘もまた俳優と女優。
それに加えてブッチャーを始めとする制作会社スタッフやパパラッチ的存在。
エラリーでさえ本作での立場は脚本家としての登場ということになります。
(ちなみに前作での結末は緘口令を決め込んでいる模様。)
前作も登場人物たちが好き勝手に動きまわるので面白かったですが、本作でも一部登場人物たちは好き勝手動き回ります。
ただそれが前作以上に幼稚に見えてしまい、面白味が感じられませんでした。
エラリーもエラリーでとある登場人物たちを意図的に引き離そうと努力するんですが、途中で記者のポーラ・ハリスが「やり方が下手」というような事を述べていますが、自分も全く同意見です。
そもそもここで遠回しな言い方で引き離そうとする理由がよく分からず、もっと直接的に言ってしまえば良かったのに。
よしんばエラリーの言動の意図が離そうとすることで逆にくっつけてしまおうという考えだったとしても、やっぱりこのやり方は下手だと思うのです。
まぁ今回の場合は犯人に犯行を認めさせる証拠がないということで、エラリーも参っていたのかも知れませんが。
ストーリーはその「とある登場人物たち」を中心に描かれており、それが全てと言ってしまっても良いほどです。
本作には前作同様グリュッキ警部が登場しますが、前作と違いエラリーの実力を認めてしまっている(当たり前ですが)ので、その点でも前作よりつまらなく感じます。
それと、エラリー自身のロマンスは何となく受け入れられない・・・という本作の流れでは受け入れられない感じがありました。
謎解き要素に関しては、特に本作で最後まで謎になるのは「一体なぜ?」という動機面のことになります。
これに関しては解決が示されてみれば至って単純なことで、ポアロのとある台詞を思い出しました。
注意深く読んだり、戻って確認すれば分かるかも知れません。
またタイトルの「ハートの4」ですが、本作ではトランプを用いた暗号メッセージが被害者たちに届きます。
途中で全てメッセージの意味が羅列されておりますので、「ハートの4」がどういう意味なのかは是非本作を読んで確認してみて下さい。
それと、本作では表面化している事件以外にも実は裏でとある事件が進行していたことが終盤で明らかになります。
自分は全く気付いていなかったので、正直ビックリしました。
その人物の一人に関しては怪しげな行動が描かれていたので、「あれは一体どういう意味なんだろう?」と不思議には思っていましたが、なるほどそういう事だったのね。
全体的には面白いともつまらないとも言い切れず、でも読むのには苦労しなかったですし、それなりには楽しめました。
ただ『中途の家』あたりから、何となく「物語その物」や「登場人物の造形」により力を入れてきている気がします。
『中途の家』はその辺りのバランスが絶妙な傑作だったと思いますが、前作と本作は色々と試行錯誤しているような印象です。
ハリウッド・シリーズは次作の『ドラゴンの歯』で一段落すると思いますが、次作はどうなんだろうか。
このハリウッド・シリーズに関しては新刊で購入するのは現状不可能に近い状態ですので、評価もそれなりと覚悟すべきでしょうか。
でも、前作は復刊して欲しいと思うくらい個人的には面白かったですし、本作だって悪くは無かったと思います。
という事で次作もそれなりに期待して読んでみたいと思っています。
その先にはいよいよ楽しみなライツヴィル・シリーズが待っていますからね!
余談ですが本作の解説が面白かったです。
というのもエラリーのとある発言からエジプトの話が出てきており、「アイーダ」なんて言葉も出てきて先日取り上げた『水晶のピラミッド』の地続きみたいで、タイムリーな話題で面白かったです。
ちなみに自分も無知故にクレオパトラはエジプト人で肌の黒い女性だと思い込んでおりました。
『ハートの4』
★★(★)☆☆ / (2.5点)