アガサ次郎の推理日記

推理小説好き(初心者)です。主に読んだ本の感想を書き込んでいきます。

『鎮魂歌 不夜城Ⅱ』 / 馳星周

 

前作と区別するために前作を『不夜城』、本作を『鎮魂歌』と表記します。

 

前作『不夜城』の騒動から2年後の物語が本作『鎮魂歌』となります。

前作では主人公の劉健一の視点で語られていましたが、本作は違います。

本作での主人公は楊偉民の秘蔵っ子とでも言えば良いのか、郭秋生という名前の殺し屋と元汚職刑事で前作にも登場した崔虎の犬である滝沢という男の2人です。

 

余談ですが、滝沢は本作の主要登場人物の中では珍しい純日本人なので覚えやすいですが、後の登場人物は中国人やら台湾人やらの血が流れてますので、名前は全て中国語読みです。

本作及び前作の中では上海語、北京語、台湾語などが入り混じっていますので、「中国語読み」という表現が正しいのかよく分かりませんが。

とにかく日本の漢字とは異なる読み方の名前が殆どです。

でも自分は殆ど日本語読みで覚えました。

例えば劉健一も<リウジェンイー>という発音になるようですが、自分はそのまま<りゅうけんいち>で読んでました。

自分がきちんと正しく読んでいたのは楊偉民<ヤンウェイミン>と崔虎<ツイフー>の2人だけです。

それでも全く問題ありませんでした。

 

話が逸れましたが、という訳で劉健一は本作では主人公ではありません。

しかし登場しない訳ではありません。

それどころか重要な人物として登場します。

前作では劉健一自身が主人公なので、劉健一が何を考えているのか、どういう意図で行動しているのかという事は読者側には全て筒抜けでした。

ところが『鎮魂歌』では違います。

主人公は飽くまでも秋生と滝沢の2人なのです。

つまり何が言いたいかと言えば、今回の劉健一は何を考えているのかが読者側にははっきりとは分かりません。

劉健一は秋生とも滝沢とも接触しますし、明らかに何か意図があって行動している節がありますし、読者側には明かされない舞台裏で動いている様子が窺えます。

でもそれがどんな意図なのか?どんな行動を取っているのか?一体何を知っているのか?

それらの疑問には読者側としては秋生や滝沢と同じように推理するしかありません。

こうなった時の劉健一の不気味さや逞しさが、本作の大きな魅力だと思います。

 

そして肝心の主人公2人ですが、秋生に関してはとある女性にゾッコン状態で読者側としてはそれが良いのか悪いのか、途中まで判断がつきません。

何となく影が見えて格好良くて、でも寂しそうな男で、殺し屋の割には素直そうという印象を抱かせるので、主人公には相応しいかも知れません。

そんな印象を徐々に蓄積している内に中盤頃から本作の物語は急展開・急加速していくことになりますが、その最中に、それが優れた殺し屋として楊偉民に可愛られている秋生にとって良い事なのか悪い事が読者側にも判断がつくようになります。

一方の滝沢に関しては、出だしからクズ人間です。

割と最初の段階で「こいつ絶対死ぬな」と思えるほどのクズ人間で、しかも情緒不安定な感じがあってクレイジーなクズ人間という、ハードボイルドな本シリーズにおいても意外と居ないキャラクター造形となっています。

でもこの滝沢、終盤はちょっとだけ格好良く見えたりするシーンがあったり。

本当にちょっとだけですけどね。

ただクレイジーな割には流石の元刑事で、意外と頭は切れるし行動力があったりします。

まぁ自発的な行動力よりも、強制されて発揮する行動力の方が多いんですけどね。

 

そんな秋生と滝沢がそれぞれの運命を辿り、交差し、そして派手な展開へと発展していくのがざっくりした本作の流れです。

その裏では『不夜城』にも登場した劉健一、楊偉民、崔虎などが暗躍しており、更に新たな登場人物が何人か出てきます。

前作では殆ど出番の無かった日本の極道も登場します。

(でも中国のマフィアと比べると全体的に小物感がある気が・・・)

一応その他にも『不夜城』に登場した人物が出てきますが、物語にきちんと絡むのは情報屋の遠澤くらいですかね。

なので本作単体でも読めないことはないと思いますが、前作『不夜城』を読まずに本作をしっかり楽しむ事は不可能だと思われます。

 

さて『鎮魂歌』に対する自分の感想ですが、前作以上に面白かったですし、比較しなくてもかなり面白かったです。

約600頁と少し長めですが、面白過ぎてあっという間に読めてしまいました。

やっぱり物語をこれだけ面白くしているのは、何を考えているのかよく分からない劉健一の存在でしょう。

本作の劉健一は良い味が出過ぎてて、『不夜城』に描かれていたちょっと頼りない感じが全くありませんでした。

前作の結末を経ての本作ですので、絶対に何か企んでいるのは間違いない訳ですが、その方法が、意図が全く分からず、秋生や滝沢同様に掌の上で踊らされました。

中盤で物語が加速してからは二転三転と修羅場が次々にやってきて、しかも主要だと思っていた人物があっさり死んだりと、マッドマックスばりのジェットコースター的展開で物凄く面白かったです。

そして結末は静かに迎えますが、次作では一体どうなることか・・・。

完結編となる次作『長恨歌』も楽しみです。

 

ということで個人的には前作が霞むくらいに今作の方が面白かったです。

また余談ですが、『鎮魂歌』では『不夜城』以上に銃撃戦の場面が出てきます。

銃については全然詳しくないのですが、秋生も使う「黒星」というトカレフがよく出てきて物凄い威力を見せつけます。

何度か「〇〇の顔が消えた」という表現が出てきて、その度にタランティーノの映画を思い浮かべました。

 

 

 

 

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『鎮魂歌 不夜城Ⅱ』

★★★★★  /  (5点)