死刑制度や冤罪、罪を背負った者、それを更生させる立場の者、それが絡み合った物語です。
具体的には記憶喪失により事件当時の記憶がないが、冤罪の疑いがあるにも関わらず死刑が執行されようとしている人物の罪を晴らすために行動する元受刑者と元刑務官の話になります。
重めの話ではありますが、自分はそこまでディープな物としては読みませんでした。
単純に物語としての面白さが備わっていたので、どんどん読む進めました。
最初に述べた通り、冤罪や死刑制度の歴史や意義についても触れられており、それもとても興味深く読めました。
でも、自分が一番興味を持てたのは主人公の1人である純一です。
この純一というのが元受刑者(正確には仮釈放中なので元受刑者ではなく現役の受刑者になるはずですが)なんですが、服役する原因となった事件が純一に非があるとは思えない内容でした。
純一もある意味では自分に非があるとは思っていません。
そんな純一が冤罪の疑いを晴らすため、そして両親のために行動していくところが自分は面白かったです。
もし自分が純一の立場だったら・・・そんなことを考えて読むと、正直やるせない気持ちになってきます。
ただ、後半そんな非があるとは思えなかった純一に対する見方が少しずつ変わっていく展開があります。
それは一体どういうことなのか。
それは是非中身を読んで確かめて下さい。
自分は純一を中心に話を読み進めていましたが、もう1人の主人公である元刑務官の南郷に共感する人も多いかも知れません。
某ゲームの主人公が「正義なんて言葉チャラチャラ口にすんな!」と言っていましたが、まさに正義の名の下に冤罪かも知れない者に死刑の執行がなされようとしているのがこの物語の渦の中心なのです。
南郷の場合は元刑務官という立場なだけに、死刑制度や囚人への向き合い方等、様々なことに対する経験を積んでおり、それだけに苦悩を抱えています。
南郷に焦点を当てて読む進めると、今度はより深い世界観が見れるのかも知れません。
物語が解決へと動き出すところまでは物凄く面白かったのですが、最後の展開がもう一ひねり欲しかったのが正直なところ。
最後の着地も、自分としてはちょっと今ひとつだったかなと。
冷静になって考えてみると、ちょっと無理があるんじゃないかと思えるような展開も混ざっており、最後の最後で躓いたような惜しい感じがあります。
推理小説として考えると、推理しようと思えば推理出来なくもないかなと思われます。
自分には全く分かっていませんでした。
何せ冤罪の疑いがある、というだけで本当に冤罪なのかどうかが分かりません。
事件当時の記憶が無いというのが謎を呼ぶきっかけになっており、それ故に誰が犯人でもおかしくないような気もしてきます。
また、死刑執行までにタイムリミットがあるということで、後半は少しスピード感が増してくる気がします。
全体的にはテーマがテーマなだけに、やはり重めの内容にはなっています。
でも、『グリーンマイル』ほど心揺さぶられるような場面はないかと思います。
それでも、やはり死刑制度についてや冤罪、あるは刑を執行する刑務官たちの苦悩などが描かれているので、読み終わった後に何かしら考えさせられる一冊にはなっていると思います。
自分としては、そういったことを抜きにしても面白かったですし、この本のテーマについて触れている部分も興味深く読むことが出来ました。
いつも言っている物語として面白いかどうか、ということで言えば、文句なしに面白かったです。
『13階段』
★★★★★ / (5点)